高圧ねじり加工による金属ガラスの構造若返り(最近の研究から)

書誌事項

タイトル別名
  • Structural Rejuvenation in Metallic Glass by High-Pressure Torsion(Research)
  • 高圧ねじり加工による金属ガラスの構造若返り
  • コウアツネジリ カコウ ニ ヨル キンゾク ガラス ノ コウゾウ ワカガエリ

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抄録

金属の融体を冷却すると凝固して多結晶体となる.融体のような非晶質状態を室温まで凍結しようとすると100万K/秒もの超急冷が必要である.しかし特定の化学組成の合金では10K/秒程度のゆっくりした冷却速度でも非晶質状態での凝固が可能であり,金属ガラスと呼ばれている.金属ガラスの開発により,ある程度の大きさの非晶質状態の合金が得られるようになり,応用だけでなく基礎研究でも新しい展開が進んでいる.非晶質合金は結晶のような原子配列の3次元的長距離秩序を有しないため,粒界や転位などの格子欠陥が存在しない.結晶の場合は0.1%程度の弾性変形後,転位の移動により数10%にも及ぶ塑性変形を示すことが知られているが,非晶質の場合はその変形機構の詳細は明らかではない.金属ガラスを室温で変形すると2%程度の弾性変形後,帯状の狭い領域に塑性変形が集中する剪断帯が試験片を斜めに横切るように一気に伝搬して破断することが破断面の観察などから知られている.金属ガラスの構造部材への応用拡大にはこの塑性変形の集中とその伝搬をどのように抑制するかが重要である.本研究では,Zr_<50>Cu_<40>Al_<10>金属ガラスに超強加工法の一つとして知られる高圧ねじり加工(High-Pressure Torsion,以下HPT,下図参照)により擬静水圧下で大きな剪断歪みを付与し,それによる変形挙動の変化についてナノインデンテーション法を用いて調べた.その結果,HPT加工により硬さと弾性率が大きく低下するとともに,構造緩和エンタルピーが大きく増加し,このエンタルピー変化と硬さ・弾性率の変化の間には良好な相関が見られることが明らかになった.さらに,ナノインデンテーションの圧痕周囲に見られる剪断帯の数が減少することも明らかになった.HPT加工による金属ガラスの構造変化については放射光を使った動径分布関数の測定で調べた.その結果,金属ガラス中の原子配列はHPT加工によって,より液体や気体に近いランダムかつ均一な構造に向かって変化したということが明らかになった.この構造変化は結晶化や構造緩和とは逆の傾向であり,"構造若返り(structural rejuvenation)"と呼ばれる.構造若返りは不安定位置にある原子密度の増加であり,そのような原子は応力や温度のような外場の刺激によってより安定な位置へ容易に移動,つまり構造緩和する.このような局所的な原子配列の変化のためにHPT加工後の金属ガラスでは加工前よりも硬さも弾性率も低下し,変形の局在化も抑制されると考えられる.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 70 (7), 544-548, 2015-07-05

    一般社団法人 日本物理学会

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