動作観察時における視覚探索戦略

DOI
  • 松尾 浩希
    森ノ宮医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 中根 征也
    森ノ宮医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 杉本 圭
    森ノ宮医療大学保健医療学部理学療法学科
  • 平川 正彦
    森ノ宮医療大学保健医療学部理学療法学科

書誌事項

タイトル別名
  • ─学生と理学療法士の比較─

抄録

<p>【はじめに】</p><p>理学療法評価において,動作観察を実施することは一度に多くの情報が入手できる点で非常に有用である。対象者の姿勢や動作を観察・分析する方法として三次元動作解析装置などの機器を用いて定量的に解析する方法がある。しかし,限られた時間で対象者を評価,治療,効果判定を行う必要がある臨床場面では,機器を用いた動作観察・分析を毎回行うことは難しい。そこで,自ら視覚探索的に対象者の姿勢や動作を観察・分析して間題点を考察し,理学療法介入に繋げる能力が求められる。一方,臨床場面では多様な特性を有する対象者の動作観察を実施していかなければならず,動作観察には熟練した技術を要する。さらに,動作観察の方法論に統一した確立されたものはなく,非熟練者にとって非常に捉えづらい評価である。</p><p>そこで本研究では,どのように動作を観察することで効率よく対象者の特性を捉えることができるのかを明らかにし,動作観察の技術向上や指導に繋げることを目的とする。</p><p>【方法】</p><p>被験者は,4 年制の理学療法士養成学校の学生25 名(1年生13 名,3 年生12 名),理学療法免許取得後4.75 ± 0.43 年目の理学療法士(以下,PT)8 名とした。被験者は,自発眼振がなく,日常生活に支障のある視覚障害がない者とした。</p><p>観察する動作は,基本動作の一つである立ち上がり動作とした。なお,本研究では動作観察時の眼球運動を解析するために,キャリブレーションフリー視線計測装置EMR ACTUS((株)ナックイメージテクノロジー社製)を使用し,モニターに映し出した立ち上がり動作の動画に対して,動作観察を行わせた。</p><p>被験者に提示する動画は定点撮影された1 画面動画とし,前額面(腹側),前額面(背側),矢状面(右側),矢状面(左側)の4 方向からの立ち上がり動作の動画を前述の順に観察させた。提示する立ち上がり動作の動画は,20 秒間で3 回の立ち上がり動作を施行するものとした。計測項目は,立ち上がり動作観察における身体各部(頭頸部,体幹,下肢)への総注視時間ならびに総注視回数とした。</p><p>統計処理は,EZR を用い,4 方向からの立ち上がり動作観察における身体各部への総注視時間と総注視時間を学生(1 年生,3 年生),PT の群間別に多重比較を行い,有意水準は5% 末満とした。</p><p>【倫理】</p><p>本研究は森ノ宮医療大学研究倫理審査部会の承認(受付番号:2018-055)を得て実施した。対象へ研究内容を口頭と書面にて説明し,書面による研究参加への同意を得た上で実施した。</p><p>【結果】</p><p>4 方向からの立ち上がり動作観察において,身体各部(頭頸部,体幹,下肢)への総注視時間は,学生(1 年生,3 年生)とPT の比較では各方向ともに有意差は認められなかった(p>0.05)。同様に総注視回数においても,学生(1 年生,3 年生)とPT の比較では各方向ともに有意差は認められなかった(p>0.05)。</p><p>【考察】</p><p>計測の結果より,学生(1 年生,3 年生)とPT の立ち上がり動作観察における身体各部への総注視時間ならびに総注視回数に有意な差は認められなかった。熟練者の視線行動には,経験則に基づく予期的な戦略があるとされる。学生における動作観察の機会は,主に学内教育と臨床実習に限られるため,経験則に基づくことは難しいと考えられる。また,被験者であったPT は免許取得後4.75 ± 0.43 年目であり,学生のみならずPT においてもヒトの動きを視覚的に探索する機会が少なかったと考えられる。</p><p>【結論】</p><p>理学療法教育として,ヒトの動きを視覚的に探索する機会を増やしていく必要があると考えられる。今後は,視覚探索戦略に必要な先行知識や臨床経験年数の差異による視覚探索戦略について検討が必要である。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), D-27-D-27, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288157774976
  • NII論文ID
    130007692869
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.d-27
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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