歩行再建に向けて受傷早期よりHybrid Assistive Limb® (以下,HAL®)を用いた不全脊髄損傷者の理学療法経験

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抄録

<p>【はじめに・目的】</p><p>本邦では,不全脊髄損傷者が増加傾向にあり,歩行再建を目標とする事も多い.また,歩行の予後予測としては,受傷72時間から2週間という早期の四肢機能が重要とされている.脊髄損傷者の歩行練習は,免荷式トレッドミルトレーニング等が中心的だが,近年, Hybrid Assistive Limb® (以下,HAL®) を用いた介入により歩行,バランス機能が向上すると報告されている.しかし,これらの介入は慢性期の報告が多く,急性期の介入報告は乏しい.今回HAL®による介入を受傷早期より行い,良好な結果が得られた為,以下に報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>症例は50歳代の女性でベッドから転落しC5/6の脱臼骨折,C5頸髄損傷を受傷した.2病日にC5-7の後方固定術,C4-7の椎弓切除術を施行,8病日より理学療法介入を開始した.8病日におけるASIA Impairment Scale (以下,AIS) はB,神経学的レベルはC5,Lower Extremity Muscle Score (以下,LEMS) は0点,触覚,痛覚はいずれも76点で不全四肢麻痺を呈していた.</p><p>【経過】</p><p>45病日より通常の理学療法に加えHAL®を用いた歩行練習を週3回,8週間実施した.HAL®による介入は装着から脱着まで1時間とし本人の疲労に合わせ歩行距離・速度を決定した.HAL®の設定はCybernic Autonomous Control (以下,CAC) から開始し,随意収縮の出現に合わせCybernic Voluntary Control (以下,CVC) へ変更した.また,トルクリミット,センスレベル,トルクチューナーは本症例の主観及びセラピストの歩行観察から随時変更した.</p><p> 主要評価項目をHAL®による歩行速度,Walking Index for Spinal Cord InjuryⅡ (以下,WISCIⅡ) ,AIS,LEMSとして介入時,介入4週,介入8週に測定した.また,副次的評価項目を,腸腰筋及び大腿四頭筋筋力 (Hand Held Dynamometer:アニマ社製μTasMT-1) ,Berg Balance Scale (以下,BBS) ,Spinal Cord Independence MeasureⅢ (以下, SCIMⅢ) として介入時,介入4週目,介入8週目に測定した.</p><p> 介入時,介入4週目,介入8週目の歩行速度は2.1m/分 (CAC) ,10.4m/分 (CVC) ,20.0m/分 (CVC) となり,AISはいずれもC,LEMSは16点,22点,27点,WISCIⅡは0点,3点,5点となった.また筋力 (右/左) は腸腰筋が0N/66N,0N/117N,17N/190N,大腿四頭筋が0N/22N,10N/58N,58N/88N,BBSは0点,5点,10点,SCIMⅢは26点,29点,42点といずれも経時的に向上を認めた.また,低血圧症状や気分不良等により介入を中止する事は無かった.182病日には両ロフストランド杖歩行が可能となり,転院と至った.</p><p>【考察】</p><p>今回,不全脊髄損傷者に対して受傷早期よりHAL®を用いた歩行練習を行い,経時的に歩行機能,バランス機能に加え筋力の向上を認めた.本症例の8病日における歩行獲得予測は35-40%であり,予測された歩行能力に比べ高い歩行能力を獲得できた.また,歩行困難であった急性期の時期から有害事象を生じることなく,歩行練習の量を確保できたことは有意義な事と考える.本介入より早期からHAL®を用いた歩行練習が有用である可能性が示唆された.一方で,患者適応の選択,他の歩行練習との比較,HAL®の設定等の検討が課題として挙げられた.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究にあたり「ヘルシンキ宣言(2010年10月修正)」及び「ヒトを対象とする医学的研究(2017年2月28日一部改訂)」に基づき文書及び口頭にて十分に説明を行い,自由意思による同意を得た.なお,本研究は当院臨床医学倫理審査委員会による承認を得ている(承認番号:29-C0201).また,本発表にあたり発表者らに開示すべきCOI関係にある企業等はない.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), E-73_2-E-73_2, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288157800576
  • NII論文ID
    130007693163
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.e-73_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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