疼痛に対して仮説・検証を繰り返し行う事で関節可動域が改善した上腕骨大結節骨折術後の一症例

DOI
  • 水本 一樹
    医療法人 春秋会 城山病院 リハビリテーション科
  • 熊原 啓
    医療法人 春秋会 城山病院 リハビリテーション科
  • 高見 武志
    医療法人 春秋会 城山病院 リハビリテーション科
  • 藤川 薫
    医療法人 春秋会 城山病院 リハビリテーション科

抄録

<p>【症例紹介】</p><p>クリニカルリーズニング(CR)とは臨床推論を意味し、「クライアントとその家族、他の医療チームメンバーと共同し、臨床データやクライアントの意志/希望、専門的知識から導き出された判断等をもとに、治療の意義、到達目標、治療方針などを構築するプロセス」と定義されている。臨床推論の過程では、症状に関連する病態や病期だけでなく、疼痛部位や原因となる解剖学的構造を理解する必要がある。以下に患者の主訴と臨床所見を照らし合わせながら仮説・検証を繰り返して介入した結果を報告する。</p><p>症例は45歳の女性。利き手は右利き。平成30年2月に交通外傷にて左上腕骨大結節骨折を受傷。受傷4日目に骨接合術(Cannulated Cancellous Screw固定)を施行した。夫と2人暮らしで、家事は主に本氏が行っている。仕事は事務職でデスクワークを中心に行っている。術後2週目より外来理学療法を開始した。評価時期は術後2週目を初期評価、4週目・6週目・9週目を中間評価、13週目を最終評価とした。</p><p>【評価とリーズニング】</p><p>後療法スケジュールは術後1週間デゾー固定し、術後2週目よりバストバンドを外しての振り子運動開始、他動運動(他動)での左肩関節屈曲、外転、外旋開始。術後3週目より三角巾を外し、自動介助運動での左肩関節屈曲、外転、外旋開始、左肩関節全方向への他動開始。術後5週目より左肩関節全方向への他動・自動運動(自動)開始。術後9週目より左肩関節全方向への抵抗運動を開始した。</p><p>初期評価時の術後2週目では左肩関節他動屈曲60°外転50°であった。食事動作・整容動作・更衣動作においては右上肢で自立。主訴は「左肩の後ろと外側が痛い。」で、HOPEは「仕事復帰がしたい。」であった。左肩関節屈曲60°で棘下筋、大円筋、上腕三頭筋、三角筋付近の疼痛を認め、振り子運動は困難であった。疼痛の原因を不動による循環不全から筋スパズムが生じていると仮説を立て介入した。</p><p>【介入内容および結果】</p><p> 筋スパズムが生じている筋に対しリラクゼーションを実施したが、防御性収縮があり疼痛の改善は得られず、左肩関節他動屈曲70°外転60°と改善は乏しかった。術後4週目より治療の再考を行い、左上腕外側の疼痛を腋窩神経の絞扼性神経障害と仮説を立て、左四辺形間隙付近に超音波療法を施行したところ疼痛の改善が得られ、振り子運動が可能となった。</p><p>術後6週目では左肩関節他動(自動)屈曲125°(90°)外転85°(55°)、左上肢での結帯動作は尾骨レベルであった。左肩関節屈曲時に術創部付近で疼痛を認めた為、術後の侵襲による影響と仮説した。臨床所見として左肩関節伸展や1st外旋、結帯動作で疼痛が助長されるため肩峰下滑液包(SAB)と回旋筋腱板(腱板)の癒着が生じていると仮説した。SABと腱板の癒着剥離操作(左肩関節伸展・内転・外旋方向→屈曲・外転・内旋方向へ自動介助運動を誘導)を実施したところ、術創部付近での疼痛は消失し、左肩関節他動(自動)屈曲135°(125°) 外転100°(90°)と改善を認めた。</p><p>術後9週目では左肩関節屈曲時に肩峰下後面で疼痛を認め、肩甲骨関節窩に対して左上腕骨頭の前方偏位が生じていた。触診により左肩関節後方軟部組織の柔軟性低下を認めたことや左肩関節他動2nd内旋15°と関節可動域制限を認めたことから後方軟部組織の短縮に伴い左上腕骨頭の前方偏位が生じているのではないかと仮説した。棘下筋や後下関節包のストレッチを行った結果、最終評価時では肩峰下後面の疼痛の軽減や左肩関節他動(自動)屈曲150°(140°)外転120°(110°) 2nd内旋30°(25°)と改善を認めた。また、食事動作・整容動作・更衣動作は両上肢で自立となった。左上肢での結帯動作はTh10レベルと改善し、職場復帰も可能となった。</p><p>【結論】</p><p>本症例は経過に伴い疼痛部位が変化していたが、CRの考えを基に患者の主訴と臨床所見を照らし合わせながら理学療法を行った結果、疼痛や関節可動域の改善に至った。</p><p>本症例を通して仮説・検証を繰り返し行う事で、変化する患者の問題点を把握し、治療介入する重要性を再認識した。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>発表に際して趣旨を症例に説明の上、同意を得た。</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-106_1-H2-106_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288157835520
  • NII論文ID
    130007693575
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h2-106_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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