誤嚥性肺炎を繰り返す嚥下障害を有する脳梗塞患者への行動変容の試み

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抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p>脳卒中患者では嚥下障害を合併する率は高く,しばしば誤嚥性肺炎を引き起こす.また,誤嚥性肺炎は脳卒中の合併症の中でも直接死因の第1位であり,嚥下障害をはじめ誤嚥性肺炎への対策は,患者の生命予後やQOL,ひいては予防医学の面からも重大な臨床課題の一つであるといえる.今回,在宅リハにおいて,嚥下障害を有し誤嚥性肺炎を繰り返す脳梗塞後の患者に対して,嚥下障害へのアプローチに加え,行動変容を促す患者教育の取り組みを実施した結果,誤嚥性肺炎の再発予防に成果が得られたので報告する.</p><p>【方法】</p><p>本症例は脳梗塞により嚥下障害を呈した70歳代の男性である.A病院入院中に誤嚥性肺炎を発症し,嚥下訓練を行うが安全に経口摂取可能な状態まで改善せず胃瘻造設となった.その後B病院に転院し誤嚥のリスクに関する説明がなされたが,食事や水分を摂取してしまうなど病識の欠如が認められていた.本症例は帰宅願望が強く,発症後4ヶ月後に自主退院となった.退院5ヶ月後に再度誤嚥性肺炎によりA病院に約2週間入院となった.A病院退院1ヶ月後,B病院より自宅での誤嚥性肺炎予防に対する介入の依頼を当施設が受け,週1回の訪問による理学療法が開始となった.また,B病院での外来言語聴覚療法(以下,ST)を週1回利用されている.</p><p> 介入時の評価として,頚部の関節可動域(以下,ROM)は前屈30゚,後屈30゚,側屈(右/左)10゚/5゚,回旋(右/左)40゚/25゚であり,頚部周囲の筋緊張は全般的に亢進を認めた.反復唾液嚥下テスト(以下,RSST)は3回,嚥下内視鏡検査(以下,VF)ではトロミつき水分でムセこみが認められた.咳嗽や自己排痰は可能であった.HDS-Rは 20点であった.また,本症例の飲食に関する行動は、行動変容ステージにおいて,周囲からの助言や注意を聞き入れる様子がなく,行動を起こす意思がほとんどない前熟考期であると考えられた.</p><p> 介入内容としては,嚥下関連部位に対し,ROM運動や筋力強化運動,口腔・嚥下体操を実施し,自主トレの導入とその継続状況の確認を行った. また,A病院への外来通院に同行し,主治医や担当STとVFの結果や食事時の注意点、治療方略等の情報の共有を図り,その情報を基に行動変容のステージに準拠した患者教育を行った.</p><p>【結果】</p><p>介入3ヶ月後には,頸部ROMは前屈40゚,後屈35゚,側屈(R /L)15゚/15゚,回旋(R/L)50゚/35゚と改善を認め,頚部周囲の筋緊張は左僧帽筋上部繊維や左胸鎖乳突筋などの頸部左側に優位な亢進が認められる程度となった.RSST は4回となった.また,飲食行動に関しては,食事時の注意点を考慮するような行動変化がみられた.なお,この3ヶ月間は誤嚥性肺炎の発症は一度もなかった.</p><p>【結論】</p><p>今回の介入の経過から,本症例のように食思が強い事や性格が影響し周囲の助言や注意点が守れず誤嚥のリスクが高い方に対し,嚥下障害に対する介入だけではなく,行動変容ステージに応じた患者教育を実施することが誤嚥性肺炎の再発予防に有用だと考えられた.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本症例研究はヘルシンキ宣言に則り実施された.また,本発表に関して,本人・家族には発表の主旨を十分に説明し,同意を得た.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), C-112_1-C-112_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288158131456
  • NII論文ID
    130007692681
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.c-112_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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