外側広筋付着部,外側膝蓋支帯周囲組織の滑走性低下により疼痛を呈した膝蓋骨亜脱臼の一症例

DOI
  • 鈴木 秀基
    福島県立医科大学附属病院 リハビリテーションセンター 弘前大学大学院 保健学研究科
  • 対馬 栄輝
    弘前大学大学院 保健学研究科
  • 坂井 未和
    福島県立医科大学附属病院 リハビリテーションセンター
  • 鴫原 智彦
    福島県立医科大学附属病院 リハビリテーションセンター 福島県立医科大学大学院 医学研究科
  • 小野 洋子
    福島県立医科大学附属病院 リハビリテーションセンター
  • 小林 秀男
    須賀川病院 整形外科
  • 佐藤 真理
    福島県立医科大学 リハビリテーション医学講座
  • 大井 直往
    福島県立医科大学 リハビリテーション医学講座

抄録

<p>【症例紹介】</p><p>今回,両膝蓋骨亜脱臼症例において外側広筋(VL)付着部,外側膝蓋支帯周囲組織の滑走性低下により疼痛を呈した症例を経験した.超音波診断装置(エコー)による動態観察を行い,理学療法や物理療法により疼痛,動作の改善を認めたので報告する.</p><p>症例は20歳代男性で,約1年半前に柔道の練習中に右膝を打ち受傷した.この際,右膝挫傷の診断にて,内服薬で疼痛コントロールが施行された.その後もVL付着部の疼痛が継続し,屈曲伸展時に轢音を認めたため,約1年前に右膝外側滑膜ひだ障害,滑膜炎の診断で関節鏡下滑膜切除術を施行された.その後もVL付着部の疼痛が継続したため,10か月前に関節鏡下滑膜切除術が再度施行された.術後は轢音が消失したものの,右膝VL付着部周囲にひっかかり感と疼痛は継続していた.その後,受傷歴のない左膝にも引っかかり感と疼痛が出現し,左膝蓋骨亜脱臼,左膝外側滑膜ひだ障害およびVL付着部の炎症と診断された.今回,両側膝蓋骨亜脱臼の診断で外来理学療法介入開始(1回/週程度)した.主訴は,「手術侵襲のあった右膝蓋骨上外側にひっかかり感と痛みがあり,痛みを取って日常生活を楽にしたい」であった.</p><p>【評価とリーズニング】</p><p>初期評価において,両膝とも安静時の疼痛はないが違和感はあった.右膝では立ち上がりや階段昇降時にVL付着部・外側膝蓋支帯周囲にNRSが9の疼痛とひっかかり感があった.また両膝窩筋,右VL付着部周囲に圧痛を認めた.右膝関節可動域は屈曲130°,伸展0°であった.踵殿距離テスト(HBD)は右3cm,左5cm,トーマステストは陽性であり,両腸腰筋,大腿直筋,大腿筋膜張筋の短縮を認めた.Heel Height Difference(HHD)は2cmであり右で制限を認めた.膝蓋骨可動性は左右とも外側,内側,頭側,尾側方向で可動性低下を認め,特に内側方向で著明に低下していた.徒手筋力検査(MMT;右/左)は股屈曲5/5,股伸展5/5,股外転5/5,股内転5/5,膝伸展4/5であった.階段昇降時,両膝の動揺や支持性低下を認めた.運動療法開始1週後,右膝の疼痛の変化はなかった.エコーを用いて,膝関節伸展時のVL付着部・外側膝蓋支帯縦走線維の動態観察を行った.右VL付着部・外側膝蓋支帯縦走線維と皮下組織において,滑走性低下が認められた.これらの結果から,膝外側組織の柔軟性改善やVL付着部・外側膝蓋支帯縦走線維と皮下組織の滑走性低下によって階段昇降時に疼痛を引き起こし,動作を阻害していると推測した.</p><p>【介入内容および結果】</p><p>運動療法は,腸腰筋,大腿四頭筋,大腿筋膜張筋,膝窩筋に対するストレッチ,膝蓋骨可動域練習,内側広筋の筋力強化を実施し,エコーによる動態観察後に外側膝蓋支帯に対するストレッチなどを追加した.運動療法開始2週後より右VL付着部・外側膝蓋支帯縦走線維に対する超音波治療を追加した.6週後,左VL付着部にも疼痛を認めたため,除痛目的に体外衝撃波治療を開始した.階段昇降時の右VL付着部・外側膝蓋支帯周囲の疼痛は4週でNRSは7,8週で4,16週で2,20週で1と徐々に低下した.左VL付着部の疼痛は,6週でNRSは6,8週で5,16週で1と徐々に低下した.8週で,エコーによる動態観察で右VL付着部・外側膝蓋支帯縦走線維と皮下組織の滑走性は改善した.16週では,階段昇降時の両膝の動揺や支持性低下はなく,動作はスムーズであった.20週では HBDは左右0cm,HHDは0cm,トーマステストでは筋短縮に改善がみられた.膝蓋骨可動性は全方向において改善を認めた.膝伸展のMMTは5/5と改善した.階段昇降時のひっかかり感はわずかに残存した.また,整形外科疾患に対する精神医学的問題評価のための簡易質問表(BS-POP)は医療者用13点,患者用18点で精神医学的問題の関与も疑われた.</p><p>【結論】</p><p>本症例は約1年前に施行された関節鏡下手術時の侵襲部位に疼痛を認め,大腿筋膜張筋や外側膝蓋支帯などの膝外側組織の柔軟性低下やエコーによる動態観察で滑走性低下を認めた.膝外側組織では筋のスパズムや短縮の影響が外側膝蓋支帯縦走線維の滑走性に強く影響を及ぼすといわれている(林ら,2015).膝外側組織の柔軟性改善やVL付着部・外側膝蓋支帯縦走線維と皮下組織の滑走性を改善させたことにより,階段昇降時の疼痛が軽減したと考える.エコーによる動態観察が詳細な軟部組織評価を可能にし,機能改善につながったと考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>患者にはヘルシンキ宣言に沿い十分な説明を行い,書面にて同意を得た.</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), H2-168_2-H2-168_2, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288158228608
  • NII論文ID
    130007693704
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.h2-168_2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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