ペロブスカイト型Co酸化物のスピンクロスオーバー現象 : その歴史と現状(交流)

書誌事項

タイトル別名
  • Spin-Crossover Phenomena in Perovskite Cobaltites : Their History and Current Status(Interdisciplinary)
  • 交流 ペロブスカイト型Co酸化物のスピンクロスオーバー現象 : その歴史と現状
  • コウリュウ ペロブスカイトガタ Co サンカブツ ノ スピンクロスオーバー ゲンショウ : ソノ レキシ ト ゲンジョウ

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抄録

遷移金属化合物では,温度や圧力などの外部条件により原子(イオン)のスピン状態が変化することがある.このスピン状態が変化する現象をスピンクロスオーバー,(あるいはスピン転移)と云う.ペロブスカイト型,及び関連の結晶構造をもつCo酸化物はこの現象を起す物質群の1つとして注目されてきた.LaCoO_3はその代表的物質として1950年代より多くの研究が行われているが,スピン状態についての議論が変遷し,現時点においても統一的理解にいたっていない.本稿では,LaCoO_3の物性を概観し,何がこの物質のスピン状態及び転移の統一的理解を困難にしているのかを述べたい.LaCoO_3では,Co^<3+>に6個の酸素がほぼ立方対称に配位したCoO_6八面体が頂点を共有して3次元的に繋がり,この物質の磁性と伝導を担っている.LaCoO_3は全温度領域で常磁性であるが,最低温ではほぼ零である磁化率が温度上昇と共に増大し100K付近で極大を示すという通常の常磁性体では見られない振る舞いを示す.さらに,500K付近にも電気抵抗の急激な減少を伴った磁化率の異常がある.現在まで,LaCoO_3における100K近傍と500K近傍の磁気的電気的異常にCo^<3+>のスピン転移が関係しているという多くの提案がなされている.Co^<3+>のスピン状態の説明をする.球対称ポテンシャルのもとで5重縮退した3d軌道は,酸素のつくる立方対称の結晶場により,2重縮退のe_g軌道と3重縮退のt_<2g>軌道に分裂し,軌道のエネルギーは前者が後者に対して高い.結晶場中のCo^<3+>(3d)^6の電子配置は,結晶場の大きさと原子内交換相互作用との兼ね合いで決まる.前者の利得が優先されると,電子配置が(t_<2g>↑)^3(t_<2g>↓)^3で合成スピンがS=0の低スピン状態(LS)が,後者の利得が優先されるとHund則を満たす電子配置(t_<2g>↑)^3(e_g↑)^2(t_<2g>↓)^1でS=2の高スピン状態(HS)が実現する.更にその中間の(t_<2g>↑)^3(e_g↑)^1(t_<2g>↓)^2の電子配置でS=1の中間スピン状態(IS)もあり得る.これまでに知られているCo^<3+>,Fe^<2+>錯体中の(3d)^6電子配置では通常ISは出現せず,LS-HS間のスピンクロスオーバーが配位子場理論で説明されてきた.ところが,LaCoO_3では低温から100Kに向かって平均のスピン状態が非磁性のスピン状態(LS)から磁性スピン状態に変わるということは共通の理解であるが,その磁性スピン状態については論争中である.磁性スピン状態が電子格子相互作用の大きいJahn-Teller活性のIS状態であることを支持する実験的研究が数多くある一方で,HSが存在することを強力に支持する実験的研究もある.LaCoO_3では,個々のCo^<3+>のスピン状態が結晶場とHund則の競合という1イオン内の事象のみではなく,近接Coイオンのスピン状態間の強い相互作用がスピン相の決定に重要な役割を果たしていると思われる.本稿ではISとHSが共存する可能性を述べる.500Kの磁気的電気的異常の本質は,強相関電子系に特徴的な絶縁体-金属転移(Mott転移)であり,それに付随して新たなスピン転移が生じていると考えられる.この500K近傍の転移は全てのRECoO_3(RE=希土類元素)に共通の現象であるが,LaCoO_3のみで見られる100Kスピン転移との関連を述べる.ペロブスカイト型,及び関連結晶構造Co酸化物のスピン転移はスピンの自由度が電荷や軌道の自由度と結合した現象である.この物質群のスピン転移が多彩であるのは,この物質群がMott転移近傍に位置し,その電子状態が"柔らかい"ことが理由の1つと思われる.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 70 (1), 6-13, 2015-01-05

    一般社団法人 日本物理学会

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