高齢の重度頸髄不全損傷者一症例における誤嚥性肺炎の予防について

DOI
  • 宮下 創
    独立行政法人地域医療機能推進機構 星ヶ丘医療センター リハビリテーション部
  • 西山 芽生
    独立行政法人地域医療機能推進機構 星ヶ丘医療センター リハビリテーション部
  • 小澤 茉侑
    独立行政法人地域医療機能推進機構 星ヶ丘医療センター リハビリテーション部
  • 堀 竜次
    森ノ宮医療大学大学院保健医療学研究科保健医療学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • -呼吸機能に着目して-

抄録

<p>【はじめに、目的】</p><p>日々の臨床で嚥下障害を認める頸髄損傷者を度々経験する。多くは自然経過で改善するが、一方で遷延する症例も存在する。また改善した症例でも退院後に誤嚥性肺炎により再入院する症例も少なくない。今回、高齢の重度頸髄損傷者一症例に対し呼吸機能に着目し誤嚥性肺炎の予防を目的とした理学療法を実施したため報告する。</p><p>【方法】</p><p>症例は60歳代の男性である。某日、突然の意識消失により転倒し救急搬送される。受傷翌日、第3-6頸椎椎弓拡大術および第3/4頸椎後方固定術を施行される。54病日、当院回復期病棟へ転院され理学療法開始となる。</p><p> 転院時の脊髄損傷機能障害尺度AISはC、NLIはC4、運動スコアは上肢/下肢:11/29であり中心性頸髄損傷の麻痺型を呈していた。脊髄損傷者に特化した日常生活動作評価であるSCIMは18/100であり重度介助を要した。起立性低血圧はなかなか改善せず全身状態は安定しなかった。また膀胱直腸障害による高圧蓄尿のため尿路感染を繰り返し、車椅子乗車時間の延長を試みたが、臥床状態が続いた。嚥下機能について、当院転院時は嚥下食であったが64病日より常食へと変更となった。しかし飲み込みにくさの訴えは転院時のまま続いていた。</p><p> 初期評価は103病日に実施した。呼吸機能評価はミナト医科学製オートスパイロAS-507を用い肺活量、1秒率を測定した。また咳嗽時の最大呼気流速PCFはPHILIPS社製ピークフローメータを用いて測定した。胸郭拡張性評価は最大吸気および呼気時の腋窩、剣状突起、第10肋骨レベルの周径を3回測定し、最大吸気と最大呼気での周径差の平均値を算出した。</p><p> 呼吸機能評価の結果、肺活量は2.57L(58%)、一秒率は91.63L(111%)であり拘束性換気障害を認めた。PCFは380L/minであった。胸郭拡張差の平均値(cm)は腋窩:0.8、剣状突起:1.3、第10肋骨:1.9であり全体的に拡張性の低下を認め、上部胸郭の拡張性低下が著明であった。介入期間は33日間とし、外肋間筋の機能不全のため吸気での胸郭拡張性が乏しく、不安定な姿勢では姿勢制御に呼吸補助筋を参加させ更に胸郭拡張性が低下してしまう傾向があった。そのため治療姿勢はティルトリクライニング車椅子に乗車し、楽に呼吸ができる姿勢に調整した。また上位肋骨に付着する呼吸補助筋の過緊張に注意しながら筋緊張の調整を実施した。</p><p>【結果】</p><p> 最終評価は136病日に実施した。肺活量は2.31L(52%)、一秒率は88.84L(108%)、PCFは360L/min、胸郭拡張差の平均値(cm)は腋窩:1.9、剣状突起:1.5、第10肋骨:1.8であった。呼吸機能に大きな変化はなかった。</p><p>【結論】</p><p> 本症例は全身状態が不安定で離床が難しい状態であったが呼吸機能を維持できた。高齢の重度頸髄損傷者では常食でも可能な嚥下機能であっても、潜在的な誤嚥リスクは高いと考えられる。退院後を見据えて回復期リハ期間中に呼吸および嚥下機能の維持・改善を目指した理学療法は誤嚥性肺炎の予防のために重要と考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例には、本発表の内容を紙面および口頭にて説明し、書面にて同意を得た。なお本発表は当院臨床研究審査委員会にて承認されている</p>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 46S1 (0), C-128_1-C-128_1, 2019

    公益社団法人 日本理学療法士協会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001288158506752
  • NII論文ID
    130007692699
  • DOI
    10.14900/cjpt.46s1.c-128_1
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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