放射性炭素年代に基づく谷頭凹地堆積物の堆積時期

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  • Radiocarbon dating of colluvial deposits in hollows

抄録

<p>地形学的知見に基づき過去の崩壊履歴や地形変動を明らかにすることは,地形学的な意義に限らず,豪雨による土砂災害の予測のためにも重要である.これまで崩壊や土石流の発生周期に関する研究の多くは,土石流扇状地を分析対象として行われてきた.一方で山地流域の源頭部,特に崩壊の発生源である谷頭凹地を対象に,崩壊履歴や地形変動を分析した研究は限られている.本研究では,2009年7月豪雨によって多数の表層崩壊が発生した山口県防府市剣川流域を対象に,谷頭凹地の堆積物の堆積時期を推定した.この地域では,いくつかの表層崩壊地内において,炭化木片などの炭質物を多く含む黒色の層(以下では,炭質物密集層)を観察することができる.そこで,表層崩壊が発生した谷頭部や1次谷側壁斜面などの計9地点において,炭質物密集層から試料を採取し,それらの放射性炭素年代を測定した.分析の結果,炭質物試料の推定年代値は例外なく1200〜1300 cal ADまたは1300〜1400 cal ADのいずれかのグループに属しており,これらの炭質物密集層は西暦1200〜1400年頃に形成されたことが推定された.谷頭部および1次谷側壁斜面における炭質物密集層を含む斜面堆積物の形成プロセスは次のように推定される.1200〜1400年頃の山火事または火入れによって生成された炭質物が当時の地表面に堆積した.その後,炭質物の上位に上方の斜面から侵食・運搬された土砂が堆積し,炭質物が埋没したことにより,炭質物密集層が形成されたと考えられる.</p><p></p><p>次に,炭質物試料を採取した2箇所の谷頭部を対象とし,それぞれ滑落崖およびその下方の崩壊地内(旧谷頭凹地)における堆積速度を算出した.放射性炭素年代測定から,炭質物密集層より上位の堆積物層は,1200〜1400年以降に形成されたと推定される.現地観察により,滑落崖における炭質物密集層の上位の堆積物の厚さは 0.65 mから1.60 mの範囲であった.崩壊地内では,崩壊によって土層が失われたため堆積物の正確な厚さを測定できないが,豪雨前後の航空レーザー測量による1 m解像度数値標高モデルの差分から,2.6〜4.9 mの範囲であることが推定された.これらの結果から,堆積速度は,滑落崖において0.9〜2.1 mm/年,崩壊地内において3.9〜6.9 mm/年であったと推定された.特に崩壊地内では,600〜800年間に3〜4 m程度の土砂が集積したことになる.谷頭凹地における急速な斜面堆積物の形成は,この地域で崩壊が多発した素因の一つであることが示唆される.</p><p></p><p>山口県防府市では,本研究対象地域とは別の地域(石原地域)において土石流扇状地の堆積物の分析が行われ,1230〜1482年の間に3回の土石流イベントが発生したことが指摘されている1).研究対象の谷頭部においても,2009年と同じ102 m3 の規模の表層崩壊は少なくとも600〜800年間は発生しておらず,山火事発生期の初期(1230年頃)か,あるいはそれよりも前に発生した可能性が高いことを指摘できる.その後はハゲ山化による土砂生産が生じた可能性はあるが,600〜800年間安定状態にあったと推定される.</p><p></p><p><文献>1) 阪口和之ほか(2018) 地盤工学ジャーナル,13(3),237-247.</p><p></p><p><謝辞>本研究は科学研究費基盤研究B(19H01371),基盤研究C(16K01214)の助成を受けて実施された.国土交通省中国地方整備局山口河川国道事務所より高解像度DEMの提供を受けた.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390002184889072256
  • NII論文ID
    130007822063
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_199
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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