唐松沢氷河の年間流動

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  • The annual flow of Karamatsuzawa glacier

抄録

<p>1.はじめに</p><p> 飛騨山脈北部では,七つの現存氷河が確認されている(福井・飯田,2012;福井ら,2018;有江ら,2019).しかしながら,飛騨山脈で確認された氷河の質量収支や流動機構はまだ明らかにされていない.</p><p> 氷河流動は,内部変形と底面すべりの総和で表される.有江ら(2019)は,融雪末期に測定された唐松沢氷河の表面流動が,グレンの流動則から求められた内部変形の理論値を上回っていたことから,この表面流動には底面すべりの寄与がある可能性を示唆した.しかしながら,測定された流動は融雪末期の一カ月間のみであるため,実際の唐松沢氷河の年間流動や流動の季節変化については明らかでない.</p><p> そこで,本研究では,2018年融雪末期に設置した唐松沢氷河上のステークの位置情報を2019年の融雪末期に再測することで,年間流動を明らかにした.</p><p></p><p>2.方法</p><p> 図1に唐松沢氷河上のGNSS測地点の位置を示す.有江ら(2019)は,唐松沢氷河上の5地点(P1〜P5)にステークを鉛直に設置し,2018年9月23日と2018年10月22日に,ステーク先端の座標をGNSS測量で求め,その水平方向の移動距離から融雪末期の29日間の流動量を算出した.</p><p> 本研究では,2019年10月21日に,2018年に設置したステークでGNSS測量をおこない,2018年10月23日と2019年10月21日の水平方向の移動距離から,唐松沢氷河の1年間の流動量を算出した.また,氷河末端付近の基盤上の基点(P6)においても再測をおこない,GNSS測量の精度を検証した.使用したGNSS測量機は,イネーブラー社製:GEM-3である.</p><p></p><p>3.結果</p><p> 2019年10月21日の現地調査で,昨年氷河上に設置した5本のステークを確認できた.写真1のように落石や雪崩により先端は大きく曲がっていたが,根本の部分は鉛直を保っていた.ステークの曲がっている部分を切断し,鉛直を保った部分にGNSS測量アンテナを取り付けてステークの位置を測位した.</p><p> 2018年10月22日〜2019年10月21日の1年間の氷河上の流動測地点(P1〜P5)の水平移動距離は2〜2.5mであった.つまり,唐松沢氷河は,1年間で2〜2.5m流動していることが示された.また,基点(P6)での一年間の水平移動距離は10cm以下であったため,氷河上で測定された流動は,測定誤差を大きく上回る有意な値であることを確認した.</p><p></p><p>4.考察</p><p> 今回,唐松沢氷河で測定された年間流動量(2〜2.5 m a-1)は,有江ほか(2019)で示された融雪末期の1カ月間の流動量から推定された1年間の流動量(最大約3 m a-1)を下回っていた.この結果,融雪末期の流動速度で1年間流動しておらず,流動速度が遅くなる時期があり,流動には季節変化があることが示された.</p><p> 融雪末期は,積雪荷重が積雪期に比べて小さいため,1年間で最も内部変形による流動が小さい時期である.唐松沢氷河では冬期に20m以上の積雪があるため,この積雪荷重が内部変形に大きく影響を及ぼすことが推定されるが,測定された年間流動量は,融雪末期の流動量よりも小さい値だった.内部変形が大きい積雪期の流動量を,内部変形が小さい融雪末期の流動量が上回ることから,唐松沢氷河の融雪末期の流動では底面すべりの寄与があることが考えられる</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390002184889154048
  • NII論文ID
    130007822062
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_197
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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