鹿嶋市中心商業地における商業空間と観光空間の混淆化に関する研究

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  • A study on the hybridity of the commercial space and the tourist space in Kashima city central commercial area

説明

<p>Ⅰ はじめに</p><p></p><p> 地方都市の中心市街地における近年の研究では,その潜在力を再評価する動きが強調されている(根田ほか, 2013).そのなかでも中心商業地の観光化を検討するには,地域資源を媒介して生成される観光空間と既存の商業空間との異種混淆的な空間の形成プロセスを整理することが肝要である.そのためには,従来の研究で議論されてきたゲスト−ホスト間といった二元性の枠を超えて,ホスト内部の社会的諸相やそれらが実践される場の唯物的空間についていま一度再検討することが必要となる.本研究では,各組織による社会的諸相と唯物的な空間関係による影響に着目しながら,本来的には商業空間として作用する中心商業地においてどのように観光空間との異種混淆化がなされてきたのかを明らかにすることを目的とする.</p><p></p><p>Ⅱ 研究方法</p><p></p><p> 研究対象地域には茨城県鹿嶋市を選定する.鹿嶋市は2002年にサッカーワールドカップの開催地に選ばれるなど,観光化に関連する社会的要因が潜在する.一方の物理的側面では,市内屈指の観光資源である鹿島神宮の位置関係に基因した地域的不平等とその克服を試みる社会的実践を観察できると考えられる.</p><p></p><p> 鹿嶋市の中心商業地は,鹿島神宮の門前に広がる.本研究では,中心商業地において現地調査を実施した.観光資源の分布や業種を観察するとともに,自治体や関連組織への聞き取り調査や,中心商業地に立地する商店137店舗の各商店主に対して今後の経営展望に関するアンケート調査を行った(有効回答数41件, 30%).</p><p></p><p>Ⅲ 結果と考察</p><p></p><p> 鹿嶋市は茨城県の縁辺に位置しており,この幾何学的空間的なハンディキャップを地域活性化によって克服することが求められる.しかしながら,中心商業地における自治体と商店会の空間的諸実践の性質がそれぞれ観光化と商業化で一致していないことや,鹿島神宮と商店会の権力構造の存在が,商業空間と観光空間の混淆化を妨げていることが明らかになった.</p><p></p><p> 鹿嶋市中心商業地における観光化の物理的な景観づくりは,主に自治体によって行われてきたことがわかった.観光のメインルートとなる門前の通りが整備されたのは2000年であった.2002年に開催されたFIFAワールドカップという,政治システムが関係していた.中心商業地における観光の推進が自治体に依存している背景には,鹿嶋市の産業構造が関係していると推察される.鹿嶋市は鹿島港における製鉄が主要産業であるが,その生産力は年々減少傾向にある.そこで鹿嶋市では,2009年頃から第二の産業として観光の推進に本格的に取り組むようになった.阿部(2003)の指摘と同様,中心商業地とは無縁な経済的要因が,またも間接的に影響している.すなわち,自治体主導の観光化は,より大きな枠組みの中で中心商業地の活性化を目指してきたと考えられる.</p><p></p><p> 中心商業地の内部に焦点を当てると,唯物的な観光空間は自治体の観光実践によって鹿島神宮の門前通りに形成されていた.しかし,主要駐車場が鹿島神宮の敷地内に立地しているため,来訪者は商店が立ち並ぶ門前通りを自家用車で通過するといった状況が生産されていた.さらに,高速バスの停留所から鹿島神宮への導線もまた,門前通りを経由しない配置であった.この導線上には空き家および空き店舗が多く,石畳の整備も不十分であるなど,来訪者の観光行動実態との間に齟齬が生じていた.</p><p></p><p> 店主の経営意思に関して,飲食業など来訪者を対象可能な業種であるにもかかわらず,観光化に応じた商売をする意思は無いという回答は41件中6件でみられた.これらの店舗は鹿島神宮から距離が離れた南西部に立地していた.距離という物理的環境が店主の意思決定に影響していたと考えられる.</p><p></p><p>【参考文献】</p><p></p><p>阿部亮吾 2003. フィリピン・パブ空間の形成とエスニシティをめぐる表象の社会的構築−名古屋市栄ウォーク街を事例に−. 人文地理 55: 307-329.</p><p></p><p>根田克彦・日野正輝・阿部和俊・山下宗利・山下博樹 2013. 中心市街地活性化の方向性と課題. E-journal GEO 8: 268-272.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390002184889272320
  • NII論文ID
    130007822386
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_92
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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