避難所での適切な生活空間の確保のための図上訓練の実践

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タイトル別名
  • Evacuation Center Imagination Training Practice for Advance Preparation of Appropriate Living Space

抄録

<p>【はじめに】災害時の避難所のあり方が問題視されており,学校教育や社会教育で,適切な生活環境を提供できる避難所運営にかかわる知識等の適切な教授が求められている。本研究では,地理学的な視点で生活空間に注目した避難所図上訓練を紹介し,教材化の可能性を探りたい。</p><p>【桜島等での実践】桜島噴火対応での鹿児島市指定避難所の開設については,全島避難後2週間程度までは,入所希望者約2657人(H28鹿児島市調査)を目安として,市街地の学校体育館等を活用する計画である。また,鹿児島市避難所運営マニュアル(H30 年4月)も公開されている。しかし,避難者となる島民が避難所運営を発災当日から主体的に行うには,避難所生活にかかわる知識と経験が十分ではなく,生活必需品の確保も具体的に決められていない。</p><p> 演者は,2017(H29)年から,避難所生活空間図上訓練を桜島島民等に対して行ってきた。これは,東日本大震災等でのパーソナル・スケールでの避難所生活の事例(災害資料)に基づき開発されており,避難所内での生活空間を具体的に考えることで,避難所運営を“我がこと”として考えることを啓発するものである。</p><p>【避難所生活空間図上訓練の概要】</p><p>目的:想定災害時に入所する避難所が明らかな当事者等が,個々の居場所(個人空間)や共同利用場所等の生活空間について,図上訓練でレイアウトして整理し,適切な避難所生活環境の確保に必要な事項を事前に考える。また,それにより,当事者が避難所運営マニュアルの適切な活用につながるために意識の改善を図る。</p><p>対象:桜島島民(≒災害危険区域住民)以外にも,教員免許状更新講習受講者や自主防災組織関係者等。小学生高学年以上で対応可能。</p><p>準備:間取り図(避難所指定施設の設計図等に基づく図面で,居住が想定される場所に1m×1mの方眼が描かれている。個人用A4サイズ1枚,グループ用A3サイズ以上1枚)。鉛筆(下書き用),色マジック(多色),避難所生活ミニ講義用のパワーポイントスライド資料(4スライドA4サイズ1枚横に印刷,32スライド程度)。</p><p>進行:第50回桜島訓練では,1グループ10人以上(桜島島民8人,受入地区住民2人,支援者等複数名)で,16グループ編成。ただし,大学授業40人程度では,1グループ4人で,10グループ編成。</p><p>【展開】所要時間90分の場合。1~3と4~5で2回に分けて実施可能。</p><p>1. 導入<5分>東日本大震災発災初期の岩手県宮古市での事例を紹介</p><p>2. 個人活動<20分>「災害は突然やって来る」ことから,ほぼ説明なしに避難所開設予定施設内で避難者の居場所等をレイアウトし,発災直後に入所可能な定員数を算出する。活動終了後にペア等で共有する。</p><p>3. 事例解説<25分>過去の災害での避難所生活の事例を具体的に知る。2011年東日本大震災での山田町大浦地区,2015年口永良部島噴火による災害での屋久島町宮之浦地区,2016年熊本地震災害での宇城市に開設された避難所について,事例の解説を受け,避難所生活の時系列的な流れやその時々の課題等について理解する。</p><p>4. グループ活動<30分>「2. 個人活動」を生かして,グループごとに話し合いながら,避難所開設予定施設内での避難者の居場所や共同利用場所等のレイアウトを決める。その際に,避難者の年齢や性別等の特性に応じて個々を具体的にどう配置するか,また,個人の居場所以外に,共同場所等として他の空間をどのように活用するかを検討する。そして,発災初日には体育館内には,生活のための資源がほぼ何もない状態であり,必要なものを周辺から調達すべきこと等の課題を列挙する。活動終了後に,隣のグループ等で内容を共有し合う。</p><p>5. まとめ<10分>個人の生活空間を適切に確保し,1避難所100人以内の定員が望ましく,避難者で話し合いながら進めることの重要性を知る。また,さまざまな避難所運営マニュアル等の紹介を通じて,自主的に事前に準備を進め,個々の避難所の運営を誰が何を具体的に行うかを決めて,地区防災計画等に整理することの必要性を知る。</p><p>【課題とおわりに】「1.導入」と「3.事例解説」では,演者が知る過去の避難所での事例が用いられている。本図上訓練を汎用化するには,スライドの厳選と解説内容の明記,実施マニュアルの整備が今後必要である。特に,訓練参加者が避難所運営マニュアルに興味を抱き,後日参照できるようにするには,マニュアルの項目を意識した整理を行うべきであろう。</p><p> また,本避難所図上訓練は,人口が相対的に少ない地域でより適したものであり,大都市等では限界が生じる場合もあるものと思われる。</p><p> なお,本研究は,科研費 基盤研究(C)(一般)「避難行動のパーソナル・スケールでの時空間情報の整理と防災教育教材の開発」(1 8 K 0 1 1 4 6)の一部である。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390002184889320192
  • NII論文ID
    130007822100
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_127
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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