日本におけるジオパークのこれからを考える

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  • Practical lessons in Japanese geoparks

抄録

<p>1.はじめに</p><p>ジオパークは「地球遺産をたたえ,持続可能な地域社会をつくろう」というスローガンの下,自然環境と地域文化を持続可能な開発の手法を用いて守り,活用するプログラムである.日本にジオパークが導入されて約10年が経過し,2020年1月時点で日本ジオパーク44地域(うちユネスコ世界ジオパーク9地域)へと成長した.</p><p>2015年にジオパークがユネスコの正式事業となり,ユネスコにおいてジオパークの認定基準が明確になった.日本のジオパークでもジオパークの品質保持のため,このユネスコ基準を援用した新規審査/再認定審査が行われるようになり,審査も変化した.この変化について日本ジオパーク委員会の現地審査報告書の分析をしたYamada and Sugimoto(2017)では,現地審査報告書に用いられる言葉の種類や組み合わせが時間とともに変化したことを明らかにした.伊豆半島ジオパークが2012年に受けた認定審査の審査結果報告書では,地球科学的な説明の拡充を求めるものが多くを占めた.</p><p>ユネスコ基準を援用したことによって日本のジオパークではユネスコ世界ジオパークに準じた活動が展開されるようになり,日本のジオパークが地質公園からジオパークへと転換しはじめた.そこで本報告ではこの転換期の日本のジオパークにおける課題とその解決に向けた方向性について議論する.</p><p></p><p>2.日本におけるジオパークの課題</p><p> 日本のジオパークは導入期においては地域にあるジオサイトの地球科学的価値を整理する段階にあったため,地質公園的な性格を持ったものになっていた.先述の通り,日本ジオパーク委員会からの勧告文も地球科学的な説明の拡充を求めるものであったことにも示されている.</p><p>地球科学的価値の整理が進んでいくのと同時に,日本のジオパークでは地域コミュニティとの協働や防災・減災教育の推進などの分野で成果をあげてきた.その一方で,ジオパークに関する用語の定義分類に対する誤解,脆弱な管理運営体制,場当たり的な観光振興,経済成長への期待と現実,ネットワーク活動の機能不全,社会とのコミュニケーション不足など様々な課題が生じてきている.</p><p>これらの課題が生じる要因として考えられるのは,金太郎飴的な地域開発に慣れていた日本社会がジオパークのような自然環境の保全保護や地域文化の尊重といったコミュニケーションと学習に基づく地域開発プログラムに直面したことが挙げられよう.定義分類に対する誤解を見ると,ジオパークを導入した初期段階において,ジオサイトという言葉が日本において馴染みがなく,ジオポイントやジオスポットという言葉の濫用が見られた.この言葉の濫用を是正すべくジオサイトの定義分類の見直しが行われ,遺産に関する定義分類も世界ジオパーク基準に合わせたものへと変更された.しかしながら,この変更を全てのジオパークが理解して導入しているわけでは必ずしもなく,混乱をきたしているケースも見られる.また,観光振興の起爆剤としてジオパークを導入した地域においては「難解な地質学では観光客を呼ぶことができない」と誤解するところもある.管理運営に至っては不透明な意思決定と責任の所在なさが露呈しているケースも見られ,審査制度への批判も出てきている.</p><p> これらは日本社会の慣習や規範の問題であり,改善していくためには「やり方を変える覚悟」が必要となる.これについては十年の活動の蓄積の中で徐々に改善されてきているところである.</p><p></p><p>3.日本におけるジオパークのこれから</p><p>ジオパーク関係者がよく使う言葉に「ジオパークは人である」というものがある.世界的な価値を持つ地形地質遺産があるだけではジオパークとなることはできない.そこに地域社会が存在することが必要不可欠である.そして,ジオパークでは知識と経験を対話によって共有することで活動を推進してきた.これがネットワーク活動の根幹となっている. ゆえに,ネットワーク活動や審査制度を利用しながら,コミュニケーションをとり,学習し続けるジオパークおよびジオパークネットワークの再構築が現在の日本のジオパークに求められる.実際にジオパークの再構築は審査基準の再設定もあり,ユネスコ基準による新規審査/再認定審査を全ジオパークで実施された後に質的変化を迎えるであろう.その成果について注視する必要があると同時に,学術面ではジオパークにおける地域変容を明らかにするための方法論を検討する必要がある。</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390002184889336832
  • NII論文ID
    130007822252
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_334
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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