東日本大震災の伝承を通じた教職員の防災力向上

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  • Enhancing teaching and management capacity for educators in disaster risk reduction through passing on lessons from the 2011 Earthquake in Tohoku, Japan

抄録

<p>1 はじめに</p><p></p><p>  東日本大震災の記憶・経験が希薄な子どもが被災地の学校でも就学期を迎える一方,教職員もまた退職・採用・人事異動による世代交代が進み,学校での震災経験の伝承が課題になっている。また,近年の自然災害の多発により,学校における防災教育や防災管理の必要性が従前以上に強調されている。2019年10月に確定した大川小津波訴訟の判決では,学校保健安全法に基づく学校による児童の安全確保義務の履行上,管理職をはじめ教職員は,高い防災の知見を踏まえた事前の学校安全を講じておくべき点を指摘した。こうした状況のなか,宮城教育大は従前の教育復興支援にかかる学内センターを改組し,震災教訓の導引とその広域伝承を通じた全国の現職教員(特に,想定首都直下・南海トラフ巨大地震想定域の学校)に対する被災地での実地研修の機会を提供する「防災教育研修機構,別称:311いのちを守る教育研修機構」(以下「機構」)の組織整備を行った(2019年度概算要求)。近年,被災地において,震災伝承のための様々なリソースが充実しはじめていることも後押しとなった。</p><p></p><p>2 震災の現場に立ち想像し学び合う機会創出</p><p></p><p>被災地の沿岸には,震災伝承施設の整備が進み,2017年4月には震災遺構として旧仙台市立荒浜小学校が,2019年3月には旧気仙沼向洋高校に伝承館が一般公開を開始した。そのほか復興祈念公園等,自然災害の脅威,震災時の経験,記憶を伝えるハード面のメモリアル施設等の公開が開始された。また,経験や教訓を伝え継ぐ職員やボランティアによる「語り部」の活動も活発化し,被災地の伝承拠点や語り部同士が連携するネットワークも組織化されている。学校教育においても,校外学習や修学旅行で震災遺構を訪問する機会が増え,教育資源としての効果的活用の支援も開始した(文献ウェブサイト参照)。</p><p></p><p>機構は2019年8月に,現職教員に対する311被災地で学ぶ3泊4日の研修を実施し,高知,和歌山,兵庫,大阪,三重,静岡などから小中高校の教諭,校長,副校長,市教育長,県・市教委の指導主事,特別支援学校事務長ら総勢29名が参加した。震災当時,地元新聞社で報道部長を務めた機構特任教授と,石巻市で校長を務めた外部講師のコーディネートにより,岩手県と宮城県の被災した学校跡地や伝承施設などを巡りながら,当時の校長や遺族等から話を聴いた。また道中,自校・地域における学校防災の実践について共有する機会を設けた。最終日に大学において意見交換やワークショップを実施し,研修に参加した国土地理院の職員から訪問先の地形や津波被災についての振り返り解説を受けたうえ,各教職員が自校に戻った後に,どのような防災管理の改善や授業づくりの実践をするかについて話し合った。さらに後日,研修後4ヶ月間で実際にどのような取組に結実したかの報告の提出を得た。</p><p></p><p>機構はこのほか,教員免許状更新講習や現職教員向け公開講座の枠を活用して被災地実地研修を新設したところ,首都圏や東北各県から多数の受講者を得た。参加者相互の震災体験・記憶の共有や対話を重視したが,参加者のなかには自身も震災で過酷な体験をしたため8年近く沿岸部の被災地を訪問することを躊躇していたが受講が向き合う良いきっかけとなった旨の感想を共有する者もいた。</p><p></p><p>3 おわりに</p><p></p><p> このようにして機構新設により,今後大規模な災害に直面するかもしれない未災地の教職員と被災地の経験者との対話を通じて学び会う定期的な機会が提供される仕組みができた。しかし,教員に必要とされる防災に関するリテラシーについて整理する体系化の作業は途上にある。学部生向けの教員養成段階から中堅,管理職とそれぞれの段階までに身に付けるべき知識・資質・能力がどうあるべきか検討を深めて行く必要がある。特に,ハザードを含む,学校の立地地域の災害リスクの理解に関しては,地理学的な知識・思考力が有効なところ,別途遂行中の教員の地形理解(村山ほか2019)にかかる論考とあわせて,地理学会における議論を深めたい。</p><p></p><p></p><p></p><p>文献</p><p></p><p>小田隆史2019. 3・11震災伝承と防災教育——いのちを守るリテラシー向上のために. 震災学 13: 96-105. </p><p></p><p>災害遺構活用支援プロジェクト 2019. 「災害メモリアルに学び,描く未来」. http://drr.miyakyo-u.ac.jp/memories/(最終閲覧日2020年1月19日),宮城教育大学防災教育研修機構.</p><p></p><p>村山良之, 小田隆史, 佐藤健, 桜井愛子, 北浦早苗, 加賀谷碧 2019. 防災のための地形ミニマム・エッセンシャルズを求めて, 2019年度日本地理学会秋季学術大会要旨集.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390002184889352192
  • NII論文ID
    130007822394
  • DOI
    10.14866/ajg.2020s.0_97
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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