認知機能の低下した高齢入院患者における移動能力の認識・判断過程

  • 篠﨑 未生
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター神経内科部
  • 山本 成美
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター神経内科部
  • 柿家 真代
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター神経内科部
  • 梶田 真子
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター看護部
  • 太田 隆二
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センターリハビリテーション科部
  • 谷本 正智
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センターリハビリテーション科部
  • 山岡 朗子
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター神経内科部
  • 竹村 真里枝
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター整形外科部
  • 佐竹 昭介
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センターフレイル研究部
  • 近藤 和泉
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センターリハビリテーション科部
  • 新畑 豊
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター神経内科部

書誌事項

タイトル別名
  • Self-Perception and Judgment of Mobility among Elderly Hospitalized Patients with Cognitive Decline
  • 認知機能の低下した高齢入院患者における移動能力の認識・判断過程 : 誤判断に伴う転倒の認知モデル
  • ニンチ キノウ ノ テイカ シタ コウレイ ニュウイン カンジャ ニ オケル イドウ ノウリョク ノ ニンシキ ・ ハンダン カテイ : ゴハンダン ニ トモナウ テントウ ノ ニンチ モデル
  • Cognitive Model of Falls Caused by Impaired Judgment
  • 誤判断に伴う転倒の認知モデル

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抄録

<p>【目的】本研究では,認知機能の低下した高齢者による転倒のメカニズムの一端を解明するべく,急性期治療を終えた直後の入院中の高齢者を対象として,認知機能レベル別に移動能力の認識・判断過程のモデル化を行い,患者による移動能力の不適切な認識が退院後の転倒発生に及ぼす影響について検討した。</p><p>【方法】研究対象者は地域包括ケア病棟に転入した平均年齢82.8 ± 6.9 歳(範囲65 ~ 97)の入院患者304 名であった。転入時および退院時の移動能力はFIM の移動・移乗関連項目で評価し,入院前の移動能力は家族への聴き取りによって評価を行った。患者による転入時の移動能力認識はSF-8 の「PF」で,転入時の役割能力認識はSF-8 の「RP」で評価し,転入時および退院時の認知機能はMMSE によって評価を行った。さらに退院後3 か月以内の転倒発生の有無を郵送式調査で実施した。転入時のMMSE 得点を基準とし,上位1/3(n = 104)を「H 群」(MMSE 得点30 ~25 点),中位1/3(n = 94)を「M 群」(MMSE 得点24 ~ 19 点),下位1/3(n = 106)を「L 群」(MMSE 得点18 ~ 0 点)とする3 群に分けて分析した。入院前および転入時の客観的な移動能力と患者による移動能力認識との関連についてSpearman の順位相関係数で検討し,構造方程式モデルによる多母集団同時分析で患者の移動能力の認識・判断過程のモデル化を行った。さらに,退院時のMMSE 得点を基準とし,25 点以上を「高群」(n = 96),24 点以下を「低群」(n = 123)とする2 群に分けて,二項ロジスティック回帰分析で患者による移動能力の不適切な認識が退院後の転倒発生に及ぼす影響について検討した。</p><p>【結果と考察】相関分析および構造方程式モデルによる多母集団同時分析の結果より,H 群では「転入時移動能力」が「転入時移動能力認識」に影響していたのに対して,M 群,L 群では「入院前移動能力」が「転入時移動能力認識」に影響していた。また,すべての群で「転入時移動能力認識」が「転入時役割能力認識」に影響していた。さらに,二項ロジスティック回帰分析(強制選択法)の結果より,高群では「退院時移動能力」得点,「退院時移動能力差」得点ともに「退院後3 か月以内の転倒発生」への影響は認められなかったのに対して,低群では「退院時移動能力差」得点による「退院後3 か月以内の転倒発生」への影響が認められた。</p><p> 認知機能が高く維持されている患者では,自己の移動能力を機能低下後の転入時の移動能力に基づき認識・判断していたのに対して,認知機能の低下した患者では,自己の移動能力を機能低下以前の移動能力に基づき過大評価して認識しており,そのことが誤判断につながる可能性が示された。さらに,認知機能の低下した患者が,自己の移動能力を機能低下以前の移動能力に基づき認識している場合,実際の移動能力と患者の認識との間にかい離が生じ,そのかい離が退院後の転倒リスクを高める可能性が示された。</p><p>【結論】急性期治療直後の認知機能の低下した高齢者では,機能低下以前の身体表象に基づいて自己の移動能力を不適切に認識,判断し,転倒発生に至る可能性が示された。</p>

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