変わりゆく香港

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  • 海外便り 変わりゆく香港
  • カイガイ ダヨリ カワリユク ホンコン

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抄録

マネタリストの総帥として知られたノーベル経済学賞受賞者のM. フリードマンは生前,香港経済を自由経済の象徴として賞賛して止まなかった。その姿勢は晩年に至るまで変わらなかったが,香港の第2 代行政長官(Chief Executive)の曾蔭權(Donald Tsang)が2006年10月にこれまでの「積極的不介入主義」政策を見直す旨の発言をしたことに衝撃を受け,わざわざWall Street Journal にこれに抗議する一文を寄稿している。フリードマンは2006年11月に死去 しているが,一説には上記の曾発言が彼の死期を早めたと言われる( 注1) 。 しかし,これまで本エッセイでも断片的に言及してきたが,香港はそもそも自他が称するほど「自由経済」ではない。例えば香港では土地は公有リース制で,自由な売買は制限されている。戦後の急激な人口増加に対応するため,住宅(特に集合住宅)は1950 年代後半から計画的に供給されており,私宅でも改築などに関しては厳しい規制がある。財・サービス市場では,米経済誌『フォーブス』の「世界長者番付」の常連である大富豪・李嘉誠(Li Ka-shing)を総 帥とする長江(チョンコン)實業など,政府と親密な関係を有する少数財閥の影響力が非常に強く,寡占的な市場が多い。高等教育や一部のメディア,銀行業では免許制などの参入規制があり,移民も人口政策の一貫で厳しく規制されている。その一方,近年まで最低賃金が存在せず,いまだに労働時間の上限規制や皆年金制度がないなど,社会政策の分野では,政府による市場への介入が極度に抑制されている領域が多く残る。しかし後に述べるように,中国返還から15 年を過ぎて,こうした事情は徐々にではあるが変わりつつある。今回は変わりゆく香港の姿を「大陸化」と「少子高齢化」という2 つのキーワードをもとに紹介し,本連載の締めくくりとしたい。

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