アスピリン大量摂取による可逆性薬剤性難聴の1例

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  • A CASE OF REVERSIBLE HEARING LOSS IN ASPIRIN OVERDOSAGE

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説明

耳鼻咽喉科の日常診療において遭遇する薬剤性難聴は,一般的にアミノグリコシド系抗菌薬や白金製剤による不可逆なものが多い.アセチルサリチル酸(アスピリン)による難聴は,可逆性であり投与中止後2,3日以内に改善する.そのため,世界中で広く使用されている薬剤にもかかわらずその報告は多くない.アスピリンによる難聴の程度は血中濃度と相関し,通常内服後2時間以内で血中濃度はピークに達し難聴を自覚するが,今回アスピリンの一度の大量摂取により吸収遅延が生じ発症に時間の要したアスピリン難聴の1例を経験したので報告する.症例は,市販のバファリンA錠を一度に50錠内服し,7時間後に両側難聴を自覚し,翌日になり受診した58歳男性.視診上耳鼻咽喉科学的部位に異常所見は認めず,血液検査では軽度の血清クレアチニン高値を認めるほか異常は認めなかった.聴器単純MRIでは明らかな異常所見は認めなかった.初診時の純音聴力検査では,4分法で右が45.0dB,左が43.8dBと水平型で両側中等度の感音難聴を認め,歪成分耳音響放射(DPOAE)で両側ともに反応不良であった.急性感音難聴と考え,アデノシン三リン酸二ナトリウム,ビタミンB12の内服で経過観察とした.4日後には症状は改善しており,純音聴力検査は右が15.0dB,左が13.8dBで,DPOAEは一部を除き反応良好であり,両側とも明らかに改善していた.以上の経過より,アスピリンによる可逆性の薬剤性急性感音難聴と診断した.その後の経過で症状の再燃はなく聴力の変化を認めなかった.一度に大量摂取したことにより胃内で塊となり吸収遅延が生じたために,発症に時間を要し,血中濃度の上昇も緩徐であったと考えられた.そのため症状は難聴のみであったと思われるが,同様の摂取量で重篤な症状を呈した報告もあり,注意して経過を見る必要があったと考える.

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