光エネルギーを用いた膜透過による水処理

  • 藤原 正浩
    国立研究開発法人産業技術総合研究所 東北センター

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  • Water Management with Membrane Permeation Using Light Energy

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抄録

世界規模で水不足問題が進行しているが,特に近年は地球温暖化等の気候変動もこの問題を助長していると思われる.地球の総水量の97 %以上となる海水から淡水を有効に製造することは,水不足問題を抜本的に解決すると期待できるが,このプロセスに化石燃料を使用すれば,更なる地球温暖化をもたらすことになる.そこで再生可能エネルギーである太陽光を用いて海水を淡水化することが求められる.筆者らは,光の作用により分子や物質の放出・拡散を制御および促進する技術を研究してきた.例えば,3 nmの微細な細孔を持つメソポーラス・シリカを用い,光で開閉するクマリンの分子ゲートを施すと細孔内の薬物分子の放出を光刺激で制御できること,あるいはアゾベンゼンの分子羽根(インペラー)を修飾することでその放出を促進できることを見いだしている.後者の場合,アゾベンゼンの光異性化の分子運動が分子のインペラーのように作用して薬物分子を押し出し,その放出速度を高めるのである.規則的な貫通細孔を持つ陽極酸化アルミナ膜にアゾベンゼン化合物を修飾し,その上に水を置き,アゾベンゼンの光異性化運動を起こす光を照射すると水は膜の下部に透過する.これは,膜に修飾されたアゾベンゼン基の連続的光異性化による分子運動が水を気化し,この水蒸気が陽極酸化アルミナ膜の細孔を透過するためと考えられる.この膜透過は蒸留と類似の効果を持つため,海水と同濃度の3.5 %塩化ナトリウム水溶液を用いた場合,膜透過した水の塩濃度は0.01 %未満となり脱塩・淡水化できる.疎水性のPTFE膜に太陽光を有効に吸収できる色素類を修飾した膜を用いると,人工太陽光による海水の淡水化も可能となり,太陽光のみを利用した海水淡水化が実現できた.

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