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- 中 惇
- 早稲田大学高等研究所
書誌事項
- タイトル別名
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- Making Spin Current in Organic Magnets
- 最近の研究から 有機磁性体でスピン流を作る
- サイキン ノ ケンキュウ カラ ユウキ ジセイタイ デ スピンリュウ オ ツクル
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説明
<p>電子は電荷だけでなくスピンの自由度を持っている.我々の身の回りの電子機器のほとんどは,このうち電荷の流れである電流によって動作しているが,もしもこれをスピンの流れであるスピン流に置き換えられれば,ジュール発熱によるエネルギー損失が極めて少ない理想的な省エネルギー機器が実現できる可能性がある.これは遠い先の目標だが,そのための第一歩はまずスピン流の性質を電流と同じように深く理解し,自在に作り出すことである.</p><p>スピン流が広く知られるようになったきっかけは,スピンホール効果と呼ばれる物性現象の発見である.これは特定の半導体や金属に電場を印加すると,電場と垂直な方向にスピン流が発生するという現象であり,20世紀後半に理論的に提案され,その後21世紀に入ってすぐに実験で実証された.スピンホール効果の起源は,原子核と電子との間に働く電磁気学的なスピン軌道結合である.これが物質中を伝播する電子に対して実効的な磁場として作用することで,スピン方向に応じて電子の運動方向を変化させ,スピン流を発生させる.しかしながら,スピン軌道結合は一般に核電荷が大きいほど強くなる傾向があり,大きなスピンホール効果を得るにはプラチナなどの希少金属が必要となる.さらにスピン軌道結合が大きいとスピン流の拡散因子となるためスピン流が物質中を伝わる距離が著しく縮まってしまうというジレンマが付きまとう.</p><p>この課題に対して我々は,スピン軌道結合によらない新しいスピン流の生成機構を提案した.そのアイデアは,スピン軌道結合が極めて小さい水素や炭素といったありふれた軽元素から構成される有機化合物が持つ,特徴的な分子の配向と磁性を活用することである.</p><p>舞台となるのは,BEDT-TTFと呼ばれる分子がペアを形成し,滑り止め板の模様に似たκ型と呼ばれるパターンで配列した有機化合物κ-(BEDT-TTF)2 Cu[N(CN)2 ]Clである.この物質は典型的な有機モット絶縁体としてよく知られた物質であり,実験で観測される金属絶縁体転移,超伝導,および反強磁性などの性質は,分子の配向を無視して簡単化したモデルに基づいて理解できることが半ば定説であった.</p><p>それに対し,これまであまり注目されてこなかった分子の配向を取り入れたモデルに立ち返り,この物質の電子状態を調べた結果,反強磁性状態では,たとえスピン軌道結合が存在しなくても,電子や磁気励起のエネルギーバンドにスピン方向に依存した分裂が生じることを見出した.このスピン分裂は,伝導電子やマグノンが物質中を伝播する時,運動しやすい方向がスピンの方向に依存して変化することを示している.この性質を利用すると,この状態に電場や温度勾配を印加することで,キャリアのスピンを整流しスピン流を取り出すことができる.また,印加する外場の方向を結晶軸に対して回転させると,発生するスピン流の方向はこれと逆向きに回転する.これは,外場とスピン流が常に垂直となるスピンホール効果とは大きく異なる.</p><p>本研究の結果は,従来スピン軌道結合が小さいためにスピン流の研究対象外であった有機化合物をはじめとする多くの物質を,スピントロニクス材料として再考察するきっかけを与える.</p><p></p>
収録刊行物
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- 日本物理学会誌
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日本物理学会誌 75 (7), 416-421, 2020-07-05
一般社団法人 日本物理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390004951542008448
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- NII論文ID
- 130007934262
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- NII書誌ID
- AN00196952
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- ISSN
- 24238872
- 00290181
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- NDL書誌ID
- 030495695
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- NDL
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可