共鳴状態の複合性で特徴づけるハドロン分子状態

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タイトル別名
  • Hadronic Molecular States Characterized by Compositeness of Resonances
  • 最近の研究から 共鳴状態の複合性で特徴づけるハドロン分子状態
  • サイキン ノ ケンキュウ カラ キョウメイ ジョウタイ ノ フクゴウセイ デ トクチョウズケル ハドロン ブンシ ジョウタイ

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抄録

<p>1960年代,それまで素粒子と考えられていた陽子,中性子のように強い相互作用をする粒子(ハドロン)が多数発見され,「素粒子と複合粒子の分別」が盛んに議論されていた.その後,強い相互作用をする基本粒子はクォークとグルーオンであり,観測されているハドロンはクォーク・グルーオンの複合系であることが明らかになった.現在までに観測されたハドロンの種類は300種以上に及ぶ.</p><p>クォークはudcstbという6種類のフレーバーをもっており,複合系であるハドロンもフレーバー量子数によって分類される.例えばudクォークはアイソスピンSU(2)の2重項を形成しアイソスピンの大きさはI=1/ 2である.核子(陽子,中性子)もアイソスピン2重項でI=1/ 2をもち,π中間子の3つの荷電状態はI=1の3重項である.強い相互作用の基礎理論である量子色力学(QCD)に特定のフレーバー量子数のハドロンを排除する機構はないが,観測されるハドロンは,クォーク・反クォーク対で構成される量子数の状態(メソン)とクォーク3つで構成される量子数の状態(バリオン)がほとんどである.近年重いクォーク対を含む系でXYZ状態やペンタクォーク粒子Pcの報告がなされているものの,真に4つ以上のクォークが必要なフレーバー量子数の状態(エキゾチックハドロン)は未だ存在が確立していない.エキゾチックハドロンがなぜ存在しないのか,存在するとしてもなぜ少ないのか,という問題は,カラー閉じ込めと同様に非自明で,300種以上のハドロンの構成機構を理解する上で重要な課題となっている.</p><p>ハドロン分子状態も通常とは異なるハドロンの構造の1つである.QCDの相互作用によってクォーク・グルーオンから形成される通常のハドロンに対し,ハドロン分子状態は主に基底状態のハドロンを構成要素とし,ハドロン間の相互作用によって形成される.特に,ハドロンのクォーク構造が見えない程度にハドロン間の束縛エネルギーが小さい場合に,構成ハドロンの性質を保った分子状態が形成されると期待される.ハドロン自体がクォークの複合系なので,ハドロン分子状態はクォークのクラスター現象としても理解できる.クラスター現象はクォークから原子・分子まで幅広いエネルギースケールで普遍的にみられる現象である.しかしハドロンのクラスターではクォーク・反クォーク対(あるいはメソン)の生成,消滅を通じて粒子数の異なる状態間の混合が起こるので,通常のクラスター現象より複雑な性質をもち合わせている.</p><p>ハドロン分子状態はフレーバーなどの保存量子数で通常のハドロンと区別できないため,構造を特徴づける何らかの指標が必要になる.ここで近年注目を集めているのが複合性という指標である.複合性の定式化自体は1960年代の「素粒子と複合粒子の分別」の議論を踏襲したものだが,現代のハドロン物理では,観測されるハドロンのほとんどが強い相互作用で崩壊する不安定な共鳴状態であり,複合性の議論も不安定状態の性質を考慮して定式化する必要がある.</p><p>われわれは最近の研究で,不安定なハドロン共鳴状態として存在するハドロン分子状態の構造が,複合性を用いて特徴づけられることを示した.特に,安定状態に対して示されていた弱束縛関係式を共鳴状態へ拡張することで,ハドロン分子状態の性質を観測可能量と関係づけた.この結果を用いて,50年以上にわたって議論されてきたΛ(1405)の内部構造について,反K中間子と核子の複合状態成分が支配的であることを定量的に示した.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 75 (8), 478-483, 2020-08-05

    一般社団法人 日本物理学会

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