災害時における住民の避難トリガーについて

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タイトル別名
  • Trigger of Start Evacuating at the Time of Disaster

抄録

<p>はじめに</p><p></p><p>自然災害といっても災害によってその性格は大きく異なる。水害は雨が降り出した段階では災害につながるか不明であるが、降水量や河川の水量などから危険を察知し、先駆けて行動することで災害を抑制することができる。人々がそれぞれ異なったタイミングで危機感を抱き、事前に避難行動などをするため、行政はその行動開始のタイミングを早めたり、危機感を抱かせたりして、災害の死者を減らすための対策を練ることになる。ハザードマップの整備・配布や河川状況や降水量の情報開示、避難情報などの発令などがそれにあたる。ハザードマップの認知度もかなり上昇しているが、このような情報が直接住民の避難行動に結びついているわけではない。これは、「情報」が人の行動を変革させるという前提が十分ではないことを意味する(関谷・田中,2016)。阪本ほか(投稿中)では、行政と住民の意志決定の間に乖離があると考え、意思決定のトリガーについて、避難意識の時間変化を表す避難行動カーブ(Evacuation Act Curve)を用いたインタビュー調査を行い、避難に関する合意を行政と住民とがともに形成することの必要性を提唱した。本報告では西日本豪雨で被災した真備町で避難行動カーブの調査件数を増やし、行動のトリガーについて分析した。</p><p></p><p>調査手法</p><p></p><p> 真備町の平成30年西日本豪雨で実際に水害にあった8地区(有井・岡田・川辺・呉妹・辻田・二万・服部・箭田)の住民を対象に、2019年9月から2020年1月にかけて、倉敷市真備町で対面式による聞き取り調査を行った。内容は年齢、在住歴、住地区、家族構成と年齢などの基本属性の項目と、平成30年西日本豪雨時の7月6日の夕方から7日の朝にかけての避難(危険)意識の変化を、横軸に時間、縦軸に意識の高さとしたグラフで表現していただいた。調査件数は有井13件、岡田11件、川辺9件、呉妹9件、辻田18件、二万7件、服部6件、箭田25件、不明3件の計101件である。</p><p></p><p>調査結果・考察</p><p></p><p>結果をもとに避難行動カーブを3タイプに分類した。</p><p></p><p>タイプAは何らかの理由で急激に避難意識が高まり避難行動に結びつくタイプである。このうち、他人からの呼びかけで高まるAaタイプとアルミ工場の爆音や水路の異常といった非日常事象によって高まるAbタイプがある。</p><p></p><p>タイプBは避難意識が様々な情報により揺れ動きながら推移するタイプである。このうち、情報により高まったり低まったりするBaタイプと、徐々に高くなり続けるBbタイプがある。</p><p></p><p>タイプCはどのような状況でも避難意識が高まらないタイプである。このうち、実際に被災するCaタイプと高台などに住んでいたため被害に合わないCbタイプがある。</p><p></p><p>  タイプAは避難するトリガーのタイミングが遅すぎて避難できないケースもあるがAaは人間関係の強化が、Abは非日常的な仕掛けによって避難行動に結びつけることが可能となる。タイプBには地域に対する正しい知識と正確な状況把握ができる情報伝達、避難所の生活不安などの避難をためらう状況改善によって避難行動を高めることが出来る。タイプCには正しい知識に基づく地域理解の啓蒙活動を行う必要がある。</p><p></p><p> 調査対象者の中に災害を及ぼす自然的な地域条件とその地域の社会的な条件の理解の欠如によって、誤った判断をした例がいくつかある。彼らは過去の水害が伝承されていない若い世代や真備に移り住んだ住民である。寿命を超える低頻度で発生する事象を伝承することは難しく、学校と地域社会の連携によって学校教育などを通した地域の記憶伝承を模索する必要があると考える。</p><p></p><p>真備水害調査グループ:阪本真由美(兵県大),廣井悠(東大), 小山真紀(岐阜大),川上賢太・洪水麻里・三笘加葉・和田祐佳・西山弘祥(岡山大)</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390004951543454848
  • NII論文ID
    130007949199
  • DOI
    10.14866/ajg.2020a.0_143
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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