中国市場における日本の医療観光目的地としてのイメージ

  • 彭 雪
    国際東アジア研究センター

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  • チュウゴク シジョウ ニ オケル ニホン ノ イリョウ カンコウ モクテキチ ト シテ ノ イメージ

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抄録

医療観光は新成長産業として,受け入れ国における膨大な経済効果が期待されており,特に近年は成長が著しいため,脚光を浴びている。しかしながら,現在のグローバル医療観光の市場の規模については,計算方法や定義が統一されておらず,各国の統計が整備段階であるため,正確な情報の把握が困難である。例えば世界全体の推定年間医療観光客数の規模は,数万人から数百万人までの幅広い数字がある(注2)。規模については研究者や実務者の間で見解が分かれているが,これから伸びていくというコンセンサスは形成されている。情報通信・交通技術の発達に助長されグローバル化が進む中,海外の医療サービスの質と価格に関する情報が容易に入手可能となり,また海外旅行もより便利になったため,国際医療観光への需要が増えていくと見込まれている。さらに,近年の「医療滞在ビザ」発行等の規制緩和策により,国際医療観光市場はますます拡大していくものと考えられる。  この十数年間の医療観光は医療費の高い欧米諸国の人々が,割安な医療サービスを求めてアジアや南米等を訪れるのが主流であった。アジアでは,シンガポールを先駆けにタイ・マレーシア・インド・韓国等がこの分野に力を入れている。また日本はこれらの国々と比較して,インバウンド医療観光への本格的な取り組みが遅れていたが,2010 年6 月,日本の「新成長戦略」として,検診・治療等の医療およびその関連サービスと観光の連携・促進という方針が決定され,「医療滞在ビザ」の創設が閣議決定されたことをきっかけに,「医療観光」は国家戦略にあげられた。これを受けて2011 年11より「医療滞在ビザ」の運用が開始され,日本の医療機関の指示による全ての行為,入院・治療・人間ドック・健康診断・歯科治療・温泉治療を含む療養・高度医療等の各種医療サービスを受けることを目的として訪日する外国人患者およびその同伴者を対象に,滞在期間が最大6 ヵ月となる医療滞在ビザの発給が可能となった。  近年では欧米市場のほか,新興国の人々が海外で医療診療を受ける需要も伸びる傾向がみられる。このような背景の中,日本のインバウンド医療観光のマーケットはアジア新興市場を狙っている。その中でも特に中国市場が重視され,中国富裕層がインバウンド医療観光のターゲットだと観光庁が発表したとの報道がある( 注3)。各民間コンサルティング会社も同様に中国を最大の有望市場と想定している( 注4)。医療ビザ発給開始の 2011 年 1 月から 2 年が経過した今,主なターゲット市場として想定している中国市場における日本の進出現状はどうなっているのだろうか。また,各国・地域と競争している中,日本はどのような医療業務を進めているのだろうか。さらに,他国と比べて日本の医療はどのような位置に立っているのだろうか。言い換えれば,中国市場における日本の医療観光のイメージはどのようなものだろうか。これらの問題の解答を明らかするのはこれが初めてである。そこで本稿では,ネット上の情報発信データを利用し,各国との比較を通じて,日本の中国市場における医療観光の情報発信の実態を解明し,日本医療観光イメージの特徴と課題を明らかにしたい。

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