誘導加速シンクロトロンの進化と応用

  • 高山 健
    高エネルギー加速器研究機構加速器研究施設

書誌事項

タイトル別名
  • Evolution of Induction Synchrotron and Its Applications
  • ユウドウ カソク シンクロトロン ノ シンカ ト オウヨウ

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抄録

<p>誘導加速器は古くて新しい粒子加速器である.加速器の父であるWiderøeの博士論文でその概念が議論された.静電加速器はガウスの法則に基づくが,誘導加速器はガウスの法則とファラディーの電磁誘導法則を動作原理の根幹に置く.現在広く普及している高周波加速器(線形加速器,マイクロトロン,サイクロトロン,シンクロトロン)がマックスウェル方程式全部に依拠するのに対比できる.原理が単純であれば加速器自身は汎用である.静電加速器は電子から帯電金属微粒子まで加速可能である.進化の観点からは静電,誘導,高周波加速器の順番で進化するのが順当であったろうが,実際には,静電加速器で最初の人工的核反応が実証された後,高周波加速器の発明があり,第二次世界大戦を挟みその展開は著しかった.</p><p>それでも誘導加速器はベータートロンという電子用加速器として1941年にKerstによって実証された後,低エネルギー原子核物理実験や,リソグラフィー用硬X線発生装置として一定の普及を見た.戦後,シンクロトロンの発明で知られる旧ソ連のVekslerと強収束の最初の発明者であるChristofilosによって,1対1のパルストランスを直線に並べた線形誘導加速器の開発が進められた.これら誘導加速器はトランスの駆動電源とトランスコア自身の発熱の制約から,最大でも100 Hz以下の低い繰り返しの運転に限られた.</p><p>2000年にKEKからシンクロトロンの高周波空洞を1対1のパルストランスに置き換えた誘導加速シンクロトロンの概念が提案された.この提案時に700 V,20 A程度の電力を1 MHzでスイッチング可能なパワー半導体素子Si-MOSFETと高速励磁に伴う渦電流ロスやコアロスが極めて小さいトランス用磁性体が市場に出回り始めた頃であった.2004年にKEK 12 GeV PSを用い,高周波閉じ込め・誘導加速というハイブリッドシンクロトロンが実証され,2006年には完全な形での誘導加速シンクロトロンが実現した.</p><p>以降,KEKでは円形誘導加速器でしか不可能な実験やスーパーバンチ生成などのビームハンドリングを念頭に,速い繰り返し誘導加速シンクロトロン,誘導加速マイクロトロン等の加速器本体の基礎研究が推進されている.一方,速い繰り返し誘導加速シンクロトロンの典型的応用である移動標的への連続追尾照射可能な次世代ハドロンセラピードライバーや物質・生体細胞深部へ圧倒的なエネルギー密度付与が可能になる高エネルギー巨大クラスターイオン加速器システムの詳細な設計研究が進んだ.今,円型誘導加速器をフルに活用した日本独自の巨大クラスターイオン慣性核融合システムなどの広範な応用研究が国内外の研究者との連携で進んでいる.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 75 (11), 666-676, 2020-11-05

    一般社団法人 日本物理学会

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