重症心身障害児(者)のコミュニケーション支援

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抄録

近年、全国の肢体不自由特別支援学校の中には、重度・重複障害児のコミュニケーション支援の計画を立てる上で、子どもの注意反応、期待反応、共同注意の発達段階にあわせてコミュニケーション支援の取り組みを行う学校が増えてきている。 従来の心理学では、明瞭な表出として認められる応答的行動に基づき、コミュニケーション発達を把握する手法が中心であった。一方、脳機能イメージングなどの手法により、行動では観察が難しい心理過程であっても、脳の広範な部位が関与することが明らかとなった。これにより、行動上では顕在化しない心理プロセスを含めて、発達を評価しようとするアプローチが取られるようになってきた。 本教育講演では、注意反応や期待反応のような行動上、必ずしも明確でない応答が生理心理的アプローチにより確認されてきた研究知見を紹介する。また、子どもの快受容や注意反応について、周囲の大人は、日々の関わりの中で一定程度、把握しており、特に、子どもの理解語いに関する判断とよく一致するという知見を紹介する。あわせて、近年の特別支援学校での注意反応や期待反応を促すためのコミュニケーション支援の具体例について紹介する。 注意反応や期待反応に関する生理心理的アプローチでは、心拍反応を用いた研究が多くなされてきた。われわれは、S1-S2パラダイムを用いて心拍反応を分析し、期待反応促進の手続きについて研究を行ってきた(片桐ら、1999)。S1として呼名を提示し、S2として子どもが喜ぶ働きかけを行った場合には、S1時点からS2時点にかけて明瞭な心拍の減速反応が生じた。この減速反応は、そばで大人が働きかけを受けとめ、子どもとともに喜ぶように声掛けをすることで、より明瞭になることが確認された。この知見から、期待反応は、行動上微弱な場合が多いが、出来事の時間関係の意味的側面について、子どもが理解していることを反映したものであることを指摘できる。 子どもの快受容や注意反応に対する周囲の大人の把握については、質問紙法で検討を行った。教室場面や学校生活場面で出会う頻度の高い単語をはじめに、調査した。次に、頻度が高かった単語20語について、担当と副担任の教員に対して、その言葉を理解していると思うか、質問紙調査を行った。担当と副担任が、判断の手がかりとする行動について、50%以上の出現率を認めると判断した場合に、理解語いとして評価した。 次に、快受容、注意反応、期待反応、要求表出を中心に15個の調査項目を作成し、理解語い数との関係について検討した。快受容、注意反応、期待反応、要求表出など、「子どもが明瞭な応答を示す」と担任が判断した項目数を説明変数、理解語彙数が11以上の事例を目的変数としてROC分析を行った結果、調査項目の達成数から算出されたカットオフ値は、感度0.8、特異度0.7という良好な識別力を持つことが分かった。このことは、複数の大人が確認できる理解語い数の獲得と、快受容、注意反応、期待反応、要求表出などの項目の達成には、緊密な関係があることを示すものである。したがって、快受容、注意反応、期待反応、要求表出などの項目の達成を促す支援は、理解語い数の増加に結びつく可能性を推測できる。 特別支援学校でのコミュニケーション支援の具体例については、広島県立福山特別支援学校(2017)による取り組みについて紹介する。 文献 片桐和雄,小池敏英,北島善夫.重症心身障害児の認知発達とその援助.北大路書房,1999. 小池敏英,雲井未歓,吉田友紀,阿部智子.肢体不自由特別支援学校における重度・重複障害児のコミュニケーション学習の習得状況の把握に関する研究−把握手続きの信頼性と妥当性について−.発達障害研究33:105−18.2011. 広島県立福山特別支援学校.重度・重複障害児の認知・コミュニケーションの指導の手引き.2017. 略歴 1976年 東京学芸大学 教育学部卒業 同大学院教育学研究科修士課程、東北大学教育学研究科博士課程修了 1993年より東京学芸大学教育学部講師、同大学助教授を経て、2000年より同大学教授。

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