強誘電–反強誘電相転移のモデル化と制御原理

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タイトル別名
  • Modeling and Control Principle for Ferroelectric–Antiferroelectric Phase Transition
  • キョウ ユウデン-ハン キョウ ユウデンソウ テンイ ノ モデルカ ト セイギョ ゲンリ

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抄録

<p>物質の電気的な性質,とくに誘電体の物性を制御する可能性について考えよう.強誘電秩序および反強誘電秩序を示す材料は広く知られており,電場による分極反転,さらには変形や熱と結びついた交差応答を示すために,実用的な観点からも大きな注目を集めている.これまで,材料における強誘電・反強誘電秩序の制御は,無機材料に関しては,原子置換,あるいは,エピタキシャル応力の印加により,また,有機材料に関しては,分子の一部を異なる基で置換することで実現されてきた.しかしながら,これらの操作によりどのような原理で相転移が制御されているのかは未解明であり,材料設計は経験則に基づきなされているのが現状である.</p><p>このような状況を打破するには,複雑な現象をうまく捨象した,強誘電–反強誘電相転移を制御可能な物理モデルの構築が不可欠である.このような相転移の制御可能性を考える上で,右図に示した棒磁石の安定配置構造が示唆的である.棒磁石により平面を埋め尽くす時,安定な基本配置は図のように2通りある.左は,三角格子上ですべての磁石の向きがそろった強磁性状態,右は,四角格子上で磁石の向きが互い違いになった反強磁性状態である.双極子相互作用の異方性に起因して,これらの配置はともに安定な磁気秩序を示しており,磁石の空間的な配置を変えることで磁気秩序を制御可能であることを示唆している.</p><p>この重心配置と方位秩序の関係はスケールに依存せず,コロイド系でも分子系でも,双極子相互作用が支配的な系では成立するはずである.そこで,分子間の立体斥力と電気的相互作用との競合により重心配置と方位秩序に結合が生まれるという着想のもとに,我々は分子形状を制御可能な,電気双極子をもつ楕円体分子モデルを提案した.電気双極子が電気的相互作用により形成する秩序は,電気双極子の空間的な配置,つまり,結晶構造の影響を強く受ける.また,分子形状を変えていき,分子間の立体的な相互作用を調節することで,結晶構造の安定性を制御することが可能である.このように,この新たなモデルにより,強誘電秩序相と反強誘電秩序相との間の相転移を,結晶構造の変化を伴いつつ引き起こすことに成功した.</p><p>さらに,この相転移における結晶構造の変化に伴い電気的秩序が変化する際,大きな変形や熱の発生/吸収が起こるという現象,すなわち,交差応答を見出した.実際に,電場印加による大きな変形や温度変化の誘起,またその逆に,応力や温度の変化による分極秩序相転移の誘起にも成功した.</p><p>我々の研究は,双極子–双極子相互作用がもつ異方性と,分子の形状に起因した立体斥力の異方性の競合により,構造相転移と分極相転移を結合させる新たな原理を示したもので,電気双極子に限らず,磁気双極子をもつ分子系にも適用可能なきわめて普遍的な物理メカニズムを提供したといえる.このメカニズムの実験的な検証は,磁気・電気双極子をもつ分子系からなる結晶,コロイド粒子系,さらには図のようなマクロな棒磁石などを用いることで可能であると考えられる.</p>

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 76 (3), 156-161, 2021-03-05

    一般社団法人 日本物理学会

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