運動による認知症予防

DOI
  • 島田 裕之
    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センター

抄録

<p> 今年度,政府から認知症施策推進大綱案が示され,認知症対策の柱として共生と予防があげられ,予防対策として集いの場の拡充が検討されている。有病率が高い認知症の予防対策のために,多くの高齢者を対象にした対処が拡充することは望ましいが,問題なのは集うことそのものに予防効果が認められるのか,そこで実施する何かに特異的効果があるのかを明らかにして対処することだろう。</p><p> 身体活動の低下は,アルツハイマー病発症の強力な要因であり,運動習慣の獲得が認知症予防のための課題であることが示唆されている。運動がアルツハイマー病予防に有効であるメカニズムに関する基礎研究は多く,いくつもの仮説が存在する。例えば,運動による神経新生,神経栄養因子の発現,アミロイドβクリアランスの向上などが動物実験で明らかにされてきた。近年では,運動によって分泌が促進する脳由来神経栄養因子と脳容量との関連が明らかにされ,人においても運動の実施により脳容量の増大が確認されている。ただし,有酸素運動のみでは高齢者の認知機能の向上は有意ではないとするメタアナリシスもあり,運動による認知機能向上のエビデンスは十分とは言えない状況にある。</p><p> 我々の研究グループは,軽度認知障害を有する高齢者308名を対象として,有酸素運動,筋力トレーニング,記憶や計算課題を課した状況下での運動(コグニサイズ)などの複合的な運動プログラムを10か月間,週1回実施した。その結果,全般的な認知機能の低下抑制,記憶力の向上や,脳萎縮の進行抑制効果が運動によって認められた。なお,先行的に実施した100名のMCI高齢者を対象としたRCTも同様の結果であった。これらの結果は,認知症の危険性が高い高齢者への積極的な介入の必要性を示唆するものであると考えられる。今後,これらの活動が認知症発症遅延に対して効果を持ち得るかを検証するための大規模サンプルでの検証が必要である。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390006065653490176
  • NII論文ID
    130008011810
  • DOI
    10.14900/cjpt.47s1.i-2
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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