O-1-D02 黒胡椒嗅覚刺激により日中の吸引回数が減少した脊髄病変・低酸素性脳症後の小児1例

DOI
  • 中村 達也
    島田療育センターはちおうじ リハビリテーション科
  • 野村 芳子
    島田療育センターはちおうじ 神経小児科
  • 加藤 真希
    島田療育センターはちおうじ リハビリテーション科
  • 鮎澤 浩一
    島田療育センターはちおうじ リハビリテーション科
  • 小沢 浩
    島田療育センターはちおうじ 神経小児科

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抄録

はじめに Ebiharaら(2006)は高齢者を対象に黒胡椒嗅覚刺激による嚥下機能改善を報告した。今回、唾液誤嚥が顕著な小児1例に黒胡椒嗅覚刺激を行い、日中の気管内吸引(以下、吸引)回数が減少したので報告する。 症例 2歳7カ月男児、低酸素性脳症および頸髄病変、単純気管切開、経管栄養。日中の嚥下反射が起きにくく、吸引が頻回。MRI所見:頸髄 C4-C8付近を中心とする高度萎縮。両側基底核・視床に虚血性変化。神経学的所見:肋間筋不全麻痺、上肢弛緩性麻痺、下肢痙性麻痺。VF所見:喉頭蓋谷の貯留、嚥下反射の遅延。 方法 各日の吸引回数を測定指標とし、A1 B1 A2 B2デザイン(A:baseline、B:黒胡椒嗅覚刺激)にて検討した。測定期間は、2014年2月〜6月(A1:27日間、B1:22日間、A2:18日間、B2:20日間)。嗅覚刺激には、オオノ製薬「むせにご縁なし」を使用。なお、本研究は当センター倫理審査委員会承諾とご家族の同意を得て開始した。 結果 各期の吸引回数の平均は、A1:13.0回、B1:17.0回、A2:17.9回、B2:8.3回であり、B2の吸引回数が少なかった。各日の回数のグラフを目視で判定すると、A1:変化なし、B1:緩やかに減少、A2:緩やかに増加、B2:減少していた。 考察 咽喉頭部の知覚にはサブスタンスP(SubP)の関与が指摘されており、咽喉頭のSubP濃度には大脳基底核のドパミンが関与していることが知られている。本症例は大脳基底核損傷を伴っており、そのため咽喉頭部の知覚低下および唾液誤嚥を引き起こしていたと推測される。Ebiharaらは黒胡椒嗅覚刺激による血中SubP濃度の増加を報告しており、同様の作用が本症例にも得られたため、吸引回数が減少したと推測される。今回は1例での検討のため結果の一般化は難しいが、嗅覚刺激といった簡便な方法で嚥下機能改善が得られれば、家族の介護負担も軽減できる。今後は症例数を増やすとともに、成人期の重症心身障害者への適応についても検討したい。

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