災害デジタルアーカイブを活用した災害伝承の場づくり
書誌事項
- タイトル別名
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- Development of the place for disaster tradition by practical using of the disaster digital archive
説明
<p>1. 背景</p><p> 本報告では,特定の空間において過去の被災経験を記録・継承する災害伝承の事例として災害デジタルアーカイブを位置づけ,その構築・利活用を通じた地域での災害伝承の場づくりに向けた展開について紹介する.</p><p> 東日本大震災以降,多くの災害デジタルアーカイブが立ち上がり,ローカルな災害の記録が主に行政・大学等研究機関によって電子的に保存・公開されてきた(柴山ほか2018).一方で「だれのために」,「何を残し」,「いかに活用するか」という目的が不明確なまま,ただ資料を電子データ化し保存するだけのデジタルアーカイブが乱立した結果,一部は予算縮減とともに閉鎖されるという問題が起こった.</p><p> こうした問題は,アーカイブを維持・管理していくうえで,災害の記録を残す営みと地域との結びつきの重要性を提起している.これら原点に立ち返り,信州大学では,当初から「地域住民のために」,「地域で活用し,継続していけるものを作る」という原則に従い,長野県白馬村・小谷村と共同して「2014年神城断層地震震災アーカイブ」を構築してきた(https://kamishiro.shinshu-bousai.jp/).</p><p></p><p>2. 災害のスケールと記録の残し方</p><p> 東日本大震災における三陸沿岸地域では,国からの交付金を原資として自治体主導で記録誌類が刊行されてきた(田村・岩船2021).また,1995年兵庫県南部地震,2016年熊本地震など大規模かつ広域な災害,社会的認知の高い災害被災地では,後世に実態や教訓を伝えるため,自治体や公的機関による各種災害誌の作成,遺構やメモリアル施設の建設等が進められてきた(鈴木2021).</p><p> 一方2014年11月22日に発生した長野県神城断層地震では,死者は生じなかったものの建物・経済被害など地域へのインパクトは甚大であった.しかしながら,影響する範囲や社会的認知度から見れば,日本国内でもローカルな災害として位置づけられる.こうした災害被災地で被災記録を残すことの意義は,自ずと被災地域および県内を対象としたものとなり,その手段は防災学習に資するコンテンツを作ることによって,学校教育,地域防災,復興ツーリズムなどを通した地域主体の活用の定着にある.そのためには,単に災害アーカイブを構築するだけでなく,住民による利活用を通じた継続的に維持管理する仕組みが必要となる.</p><p></p><p>3. 2014年神城断層地震震災アーカイブの利活用実践</p><p> そこで信州大学では,過去の被災経験,現実の空間,地域の人々をつなぐ「場」をつくることによって,災害アーカイブの維持管理および今後の地域防災を担う人材育成の取り組みを行っている.これらの活動を災害伝承の場づくりとして位置づけ,以下ではその具体的な内容について紹介する.</p><p></p><p>(1)震災遺構とアーカイブを連動させるオフサイト構築</p><p> 白馬・小谷村内10地点にQRコード付きの説明看板を設置し,現地で被災時と現在の様子を比較できるサイトを整備した.現地を訪問しスマホなどでQRコードを読み取ることで,アーカイブから発災時の様子を見ながら,現在の状況と比較し震災を理解できる仕組みである.こうしたデジタル空間と現実空間を往還する「場」をつくることによって,地域住民の防災教育や復興ツーリズムへの活用も提案している.</p><p></p><p>(2)語り部となるアーカイブサポーターズ養成</p><p> 白馬村公民館講座と連携し,山麓めぐりガイドの方々にアーカイブサポーターズ養成講座を実施している.アーカイブの利活用や語り部の育成など,震災の経験や記憶を村民自らが引き継いでいくための「場」となっている.</p><p> 学校防災や企業防災とは異なり,ボランティアベースで活動が実践される地域防災は,担い手の意識の醸成やリーダーの育成が鍵となる.地域の自然環境や歴史に興味がある住民に対して災害アーカイブを活用した生涯学習(座学・フィールドワーク)を実施し,参加者に防災にも関心を持ってもらい,震災を語り継ぐことにも連鎖的に関心を高め地域に浸透させる仕組みである.</p><p></p><p>4. 課題</p><p> 以上のように,地域主体で記録を残し,活用するためには,デジタルアーカイブにとっても場所・空間は不可欠な要素である.今後はデジタル空間と現実空間,人々の記憶や実践をつなげる場づくりを体系的に整理し,災害伝承の枠組みで議論することが課題である.</p><p></p><p>文献</p><p>柴山明寛・北村美和子・ボレー セバスチャン・今村文彦(2018)東日本大震災の事例から見えてくる震災アーカイブの現状と課題. デジタルアーカイブ学会誌2-3: 282-286.</p><p>鈴木比奈子(2021)過去の自然災害記録に見る災害アーカイブの展望——三陸沿岸の津波災害に関する事例を中心に. 地学雑誌130-2: 177-196.</p><p>田村俊和・岩船昌起(2021)ローカルな災害記録——そこに書き残されていること,書き残しておきたいこと. 地学雑誌130-2: 153-176.</p>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2021a (0), 95-, 2021
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390008057583582080
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- NII論文ID
- 130008093100
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可