人生の分水嶺 : 「農民工子女」の中学校卒業後の選択を追跡する民族誌的研究

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  • WAN Yi
    九州大学大学院人間環境学府 教育システム専攻

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タイトル別名
  • Life on the Watershed: An Ethnographic Study of Tracking Migrant Children's Choices After Junior High

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抄録

中国における国内移民の子どもとくに低階層の出稼ぎ労働者の子ども一「農民工子女」の教育に関する研究は、1990年代から国内外の研究者より大きな関心を集めた。義務教育段階での公立学校への就学率の低さや農民工が自ら運営する私立の学校の質の低さなど、多くの文献が理論的および実証的に農民工子女の教育機会の不平等を指摘してきた。しかし、農民工子女が中国の都市で質の低い教育を受けた後の進路選択はそれほど明確ではない。移動性の高いコミュニテイを対象に縦断的研究を行うことが困難なため、農民工子女に関する長期的な研究が不足している。その一方で、この時期は農民工子女の高校進学または労働市場への参入にあたる時期であり、人生に重要な影響を及ぼすことにもかかわらず、12~15歳以降の農民工子女の教育経験と結果に関する情報が明らかに研究の隙間になっている。ほとんどの大都市では、地元の戸籍を持つ住民以外の人が小中学校の後に現地に教育を受けられないようにする広範な規制がかかっている。多くの地方政府は、高校及び大学入試は、世帯登録(戸籍)が行われた児童生徒の「出身地」で受けることを主張しているため、農民工子女の継続教育を農村地域の行政機関へ責任を転移した。都市で育ち、教育を受けた農民工子女にとって、彼らの故郷の村は、彼らが都市で経験したものとは異なる方言、フイフスタイル、教育システムを備えたなじみのない場所になる。彼らの両親は、都市で教育を継続させるための方法を模索してきた。彼らの教育戦略はどれほど成功し、農民工子女や都市社会にとっての成果は何であろうか。本文は、以上の質間に答えるとともに、「農民工子女の質が低いため教育的または社会的成功を収めることができなかった」という中国の文脈における人口の質をめぐる仮定を間うことになる。さらに、限られた卒業生の雇用と農民工子女の教育に対する構造的障壁が、彼らの社会的流動性を改善することを妨げているについて議論していきたい。本研究は2017年から2019年まで断続的にフィールドワークを実施し、中国の浙江省と安徽省における8人の農民工の両親及び14~21歳の4人の農民工子女を対象にインタビュイー及び参与観察を行った。彼らの中学校卒業後の進路選択を調べた結果、都市の専門学校に進学する、単独で農村の公立学校へ戻る、両親と一緒に故郷の公立高校に戻る、または都市の高校に進学するという三つの異なる道がわかった。それぞれの農民工子女の教育経験をインタビュイーによって小学校教育までさかのぼった。小学校から高校まで、そしてそれ以降の教育履歴を調べることにより、これらの教育ルートが実際に同じ工ンドポイントにつながることが明らかになった。それは、戸籍のステータスを変更しない限り、都市サービス部門での低賃金の仕事に従事することである。さまざまな要因に関係なく、農民工子女は最終的に、教育を受けることによって高等教育へのアクセスが難しく、低階層、低賃金の仕事に就く結果になる。

収録刊行物

  • 国際教育文化研究

    国際教育文化研究 20 (0), 13-26, 2021

    九州大学人間環境学研究院国際教育文化研究会

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