音声機能・顔面神経機能を評価するiPhone アプリの開発

書誌事項

タイトル別名
  • Development of an iPhone application to evaluate voice function and facial nerve function

抄録

近年,医療現場では,主に画像認識などの分野で人工知能の活用が広がっている.音声や顔面運動を人工知能によって評価することができれば,検者によらず,誰が評価しても同じ評価が可能となる.音声障害や顔面神経麻痺に対して,重症度評価,治療法選択や治療効果判定のために正確な評価は大変重要であり,音声そのものや顔面の動き自体を評価するために様々な方法が提唱されている.それぞれに利点,欠点が存在するが,広く診察室で臨床的に使用されている方法として,音声では嗄声の聴覚心理学的評価(GRBAS 尺度),顔面運動評価では40 点評価法( 柳原法) が挙げられる.いずれも簡便かつ手軽に使えるため,何十年にも渡って耳鼻咽喉科での評価方法の主流として扱われている が,欠点も存在する.まず,評価方法自体が専門医による評価を想定しており,ある程度正確な評価を行うためにはトレーニングを要し,患者やその家族はもちろん,非専門医で判断することが困難という欠点がある.また,あくまで主観的評価のため,専門医の間でも評価点数にばらつきが生じることが知られており,指標として目安とはなるものの細かい評価には不向きである.  主観的評価法を客観的に評価する方法が今までにもいろいろと発表されているが,問題となるのが臨床現場への応用であり,今のところ広く使われている方法はない.例えば,音声を機械学習で正確に評価できるといっても,一般に,ディープラーニングは利用するためには専用のソフトウェアが必要で手軽に使えるとは言い難く,また,レーザーで精密に顔の3 次元構造を把握する装置を作ったとしても,そういった装置が広く一般に普及するにはコストや設置場所の面で難がある.  そこで,今回我々は,音声および顔面運動を評価するiPhone アプリを開発した.iPhone は機械学習に特化したニューラルエンジンを搭載しており,機械学習で得られた成果をiPhone に移植することが可能となっている.当院にて収集した1000 件を超える音声障害患者を含む音声データに対してディープラーニングによる学習を行い,GRBAS 評価を行うモデルを作成した.検証にて十分な正答率が得られたためiPhoneアプリへ組み込み,リアルタイム解析を行えるようにした.また,電子決済などにも用いられる顔認証システムを応用し,顔面の動きをリアルタイムに評価可能なアプリを開発した.いずれも,従来の主観性を排し客観的評価が可能となったばかりでなく,使用は簡便であるため,外来の臨床現場でも手軽に用いることが可能であった.また,デバイスは比較的普及しているので,例えば,患者自身もアプリをダウンロードして評価が可能となるため,さらに頻回な評価や早期発見,自宅でのリハビリテーションでの活用も期待でき,今後の耳鼻咽喉科診療の形が変わっていく可能性を秘めている.

収録刊行物

  • Tenri Medical Bulletin

    Tenri Medical Bulletin 24 (2), 123-123, 2021-12-25

    公益財団法人 天理よろづ相談所 医学研究所

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