日本域の水需給に対する気候変動の影響予測:水資源と水稲生育の統合的評価に向けて

書誌事項

タイトル別名
  • Predicting the Impact of Climate Change on Water Supply and Demand in Japan: Toward an Integrated Assessment of Water Resources and Rice Growth

説明

<p>近年,気候変動が水資源・水利用,食料生産に及ぼす影響の予測と適応策の評価に関心が高まっている.水田の作付期および灌漑期は,利用可能な水資源の制約を受けながらも,稲作技術の変遷に従って変化し,今後も気候変動の影響に伴い変化すると考えられる.全取水量の約7割を占め,河川の複数地点で取水・還元が繰り返される農業用水は,河川の低水流量を決定づける大きな要因である.水資源の予測のため,吉田ら(2012)は自然的過程に加え,水利施設群による人為的な流況制御の影響を考慮可能な流域スケールの水循環モデルを構築した.一方,1990年代より気温上昇,特に夏季の高温が水稲の品質を低下させることが指摘され始め,高温による品質の低下がヒートドース(出穂後20日間の日平均気温が26 ℃を超過した値を積算した暑熱指数)と相関が高いことが示された.Ishigooka et al. (2017) は,この知見をもとにした予測モデルで水稲の収量・品質の低下リスクを評価し,気温上昇への適応策としての最適な移植日を提案した.ところが,前述のとおり水田の作付期および灌漑期と利用可能な水資源は互いに制約し合っているものの,現状ではそれぞれが独立した評価に留まっている.本稿では,これまでに著者らが取り組んできた,日本全域を対象とした水資源と水稲の収量・品質に対する気候変動の影響評価をまとめるとともに,両者を連携した影響評価の展望を報告する.</p><p>著者らがこれまでに取り組んできた気候変動の影響評価では,水資源に関しては将来的に北日本の代かき期と出穂期における渇水流量が減少傾向にあることが示された.また,水稲の収量・品質に対する影響評価では,将来的に収量が増加/減少する地域に分かれることが示され,収量と品質のそれぞれに対する最適な移植日が推定された.信濃川流域を例にとると,水資源的には,灌漑期の後半(9月)に近づくにつれて水資源が逼迫することが懸念されている中,将来的に渇水傾向が強まることが予測されている.一方で,水稲の品質的には約2か月後倒しにした移植日が最適解となっているが,水資源の逼迫状況を踏まえると適応が難しいと考えられる.つまり,水資源と水稲の収量・品質に対する気候変動への現実的な適応策に向けては,それぞれの影響評価や適応策の整合性を取り,両者に対する妥協解を提示する必要がある.</p>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390009084487655936
  • NII論文ID
    130008138026
  • DOI
    10.11520/jshwr.34.0_28
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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