バローチスターンの先史土器文化に関する考古学的検討 : 愛知県陶磁資料館寄託のパキスタン先史土器群(5)

書誌事項

タイトル別名
  • Report on the Survey of the Archaeological Materials of Prehistoric Pakistan stored in the Aichi Prefectural Ceramic Museum. Part 5: Archaeological Considerations on the Pottery and Cultures in the Pre-/Protohistoric Balochistan
  • バローチスターン ノ センシ ドキ ブンカ ニ カンスル コウコガクテキ ケントウ : アイチケン トウジシリョウカン キタク ノ パキスタン センシ ドキグン 5

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抄録

本稿は、愛知県陶磁資料館に寄託されている彩文土器に関する調査報告である。前稿[Konasukawa et al . 2011, 2012; Shudai et al . 2009, 2010]までに述べてきたように、総数133点におよぶ彩文土器は、現在のパキスタン・イスラーム共和国の南西部にあたるバローチスターン丘陵部に展開した先史文化の所産であると考えられる。この土器群は、紀元前6千年紀後半から前2千年紀初頭までの長期にわたる時間幅と、それぞれに個性豊かな彩文と製作技法によってバローチスターン先・原史文化の多様性を示し、バローチスターン丘陵部で長期間にわたり展開した地域間交流と土器製作技法の復元に多大な考古学的情報を提供するものである。こうした理由から、筆者らは愛知県陶磁資料館に寄託されているこれらの土器群をいち早く共有・活用できるデータとするために、その資料化を進めてきた。 前回までにナール式土器[Shudai et al . 2009]、クッリ式土器[Shudai et al . 2010]、エミール式土器およびクエッタ土器様式[Konasukawa et al . 2011]、トガウ式土器とケチ・ベーグ式土器およびその他の土器群[Konasukawa et al . 2012]について報告してきた。本稿では、前回までに報告した土器群の歴史的意義の検討も含めた、先・原史バローチスターンにおける土器文化の諸問題について考究した。まずは、拙稿[Konasukawa et al . 2011, 2012; Shudai et al . 2009, 2010]で報告した土器資料を概観し、各土器型式の器種・器形、彩文、製作技法および分布傾向についてまとめた。次いで、バローチスターン先・原史文化における土器の製作技法と彩文の変遷を検討し、本論のまとめとしてバローチスターン先・原史土器文化について筆者らの見解を述べた。 前3年紀前半に完全ロクロ水挽き成形による土器製作技法が登場するが、それ以降もその製作技法が主体となることはなく、前5千年紀後半に成立した「回転台上での粘土紐成形技法で一次成形し、その後ヘラなどの製陶具による回転ケズリと回転ナデによる整形を行なう技法」が、バローチスターン先・原史文化に伝統的な土器製作技法であった。 コブウシやインド菩提樹などの動植物文様と階段形文などの幾何学文様は、前4千年紀後半から前2千年紀前半の長期間わたってバローチスターン先・原史文化に保持され、土器に描かれ続けたことも明らかにした。彩文要素だけではなく、彩文を描くためのカンバスとパネルを設定するという手法も継承されていた。彩文に関しては、それまでは個別に描かれていた動植物文様が前3年紀中頃に「動物+植物」というセット関係を構成するに至るプロセスも推定した。このバローチスターン先・原史文化の彩文伝統に基づく彩文様式は、最終的にクッリ式土器に継承されたものと考えた。 そのうえで、バローチスターン先・原史文化における土器文化の設定を試みた。土器製作技法と彩文の観点からすれば、前5千年紀後半から前2千年紀初頭の期間に、メヘルガルI期文化(Stage 0)→土器出現期文化(Stage 1)→キリ・グール・ムハンマド文化(Stage 2)→トガウ文化(Stage 3-early)→ケチ・ベーグ=ナール文化(Stage 3-late)→前期クエッタ文化(Stage 4)と後期クエッタ文化(Stage 5)→クッリ文化(Stages 6-early/late)→ピーラク文化(Stage 7)という土器文化を設定した。 バローチスターン先・原史文化の土器製作における最も際立った特徴は、製作技法や彩文様式の革新を繰り返すことではなく、長期間にわたる伝統の保持にあり、各土器文化の製作技法と彩文様式が系譜関係にあるという結論を得た。 なお、愛知県陶磁資料館に寄託される人物や動物を中心とする土偶に関しては、機会を改めて報告する予定である。

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