<研究ノート>日本オリジナルの人文社会系キーワード

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タイトル別名
  • <Research Note>Japanese Original Key Words in the Humanities and Social Sciences
  • 日本オリジナルの人文社会系キーワード
  • ニホン オリジナル ノ ジンブン シャカイケイ キーワード

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説明

近代日本は、洋学を輸入する際の不可欠の作業として、ヨーロッパ語の学術用語を大量に翻訳する必要に迫られた。文章全体のレベルでは、逐語訳と自由訳が問題になり、その後も長く問題となっている。これに比べて、単語のレベルでは、おおむね漢語二字を用いた翻訳語のスタイルが確立し、現在に至っている。ただし単語には、翻訳語が複数あって混乱する弊害を避けるため、逐語訳というより、端的に原語をカタカナで音写するスタイルもある。「国家主義」「民族主義」に対する「ナショナリズム」は、その典型である。逆に、日本語を母語とするわれわれが、ヨーロッパ語を操作してオリジナルのタームを作ることも、理科系ではふつうに行われてきて、文科系でもそのような例がある。本稿では、翻訳語と思われている人文社会科学系のキータームの中に、日本オリジナルのタームがあるという、ほとんど注目されていないが、注目すべき文化現象を、取り上げる。それらは、さまざまなタームの翻訳がなされるプロセスの副産物として、あるいは翻訳語の交配物として、翻訳語に紛れて流通している。管見のかぎり、「叙景詩」はその筆頭であり、ヨーロッパ語にはオリジナルが存在しない。「原風景」は、語形として対応するドイツ語はあるにはあるが、日本語はまったく異なる語義を盛り込んでおり、限りなくオリジナルに近い。関連して、「アトモスケープ」という、ヨーロッパ語を用いた、日本オリジナルなキーワードが提案されている。これらとも重なりつつ、社会科学にも関連する「深層文化」というキーワードは、「深層」「文化」という翻訳語を交配した、日本オリジナルのもので、1970年前後に造語された。これに関連する「頂点文化」というキーワードは、2008年に提案されたものである。

収録刊行物

  • 国際日本研究

    国際日本研究 8 93-108, 2016-03

    筑波大学人文社会科学研究科国際日本研究専攻

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