社会問題と社会的手抜き

書誌事項

タイトル別名
  • Social problems and social loafing
  • シャカイ モンダイ ト シャカイテキ テヌキ

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説明

社会的手抜きは様々な社会問題と関連していると考えられる。ここでは生活保護や福祉の問題、投票率について取り上げる。これらはいずれも社会的手抜きの原因である当事者の努力の不要性、道具性、評価可能性、報酬価の認識と関連している。生活保護不正受給者の場合、社会の一翼を担い、社会に貢献するという認識(努力の不要性認識と関連)や働くことが自分の生活を充実させるという認識(道具性認識と関連)、それから努力が認められ評価されるという認識(逆に言えば働かなくても保護費という一定の報酬を得ることができ、そのことで不利な立場に置かれたり、公になったりすることにはないという認識(評価可能性認識と関連))がなく、さらに仕事自体に価値を見いだせない(報酬価認識と関連)など、社会的手抜きの全ての認知要素を持っていることが考えられる。昨今の経済状況や福祉システムはこのような認識を持つ人々の増加を促進している可能性がある。投票率に関しても社会的手抜きに影響する要因が関連している。国政選挙の場合、1 票の重みは8 万~32 万(有権者数 / 定数)である。ということは個人の投票行動が選挙結果に影響する確率は低く、宝くじ並みと言ってもよいくらいである。そのために社会的手抜き(棄権)の確率が大きくなることは当然である。選挙は集団サイズが極端に大きい典型的な手抜き実験状況に類似したものと言えるかもしれない。しかしそのような課題構造(加算的課題)にもかかわらず6割の人が投票するということは、ある意味では驚くべき現象(非合理的行動)とも言える。この非合理的行動を支えているのは民主主義を支える市民としての責務を果たすことができたという倫理的満足感などであろう。このような民主主義や政治システムや他者に対する信頼感がその国の財政赤字とも関連しているということを明らかにした国際比較研究もある。社会的手抜きを防ぐためには、社会や他者に対する信頼感と自分がそれに貢献しているという認識が必要であると考えられる。

収録刊行物

  • 対人社会心理学研究

    対人社会心理学研究 13 1-7, 2013

    大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学研究室

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