九鬼周造の『偶然性の問題』における「現実」

書誌事項

タイトル別名
  • Genjitsu in The Problem of Contingency
  • クキ シュウゾウ ノ グウセンセイ ノ モンダイ ニ オケル ゲンジツ

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説明

人間学・人類学 : 論文

九鬼周造(1888-1941)は、哲学は「現実」を把握するものでなければならないと考えていた。『偶然性の問題』では『「いき」の構造』のように「我々」の共同体と時間の連続性を自明とするのではなく、「我」が直面する「現在」だけを確実な基底とする。この「我」が目下直面する現在という起点から共同体と時間の連続性を哲学的に構築し、行為する主体を形成していくことが『偶然性の問題』の課題である。本論文は『偶然性の問題』における「現実」の位置づけを解明することを通じて、この九鬼哲学の根本にある課題へとアプローチする。『偶然性の問題』の第三章「離接的偶然」の前半で論じられる様相論の分析を通じて「現実」の位置づけを明らかにする。九鬼の様相論は離接性モデルに基づいた存在を分析する軸と、「実在性」と「虚無性」からなる「質」の軸によって構成される。離接性モデルは現在直面する事実を分類し、「質」の軸は事実を受け止めて人間の思考を展開する。様相の第一体系は狭義の「現実」である事実の把握、第二体系は事実と、それを受けての人間の思考からなる広義の「現実」、そして第三体系とその図解として九鬼が提示した「生産原理」は「現実」を受け止めた上で展開される主体による行為を、論じていると解釈することができる。九鬼の主体は偶然性に根差すが故の脆さを抱えている。しかしその脆さにこそ、生きている人間の「現実」があるといえる。

収録刊行物

  • 年報人間科学

    年報人間科学 38 35-49, 2017-03-31

    大阪大学大学院人間科学研究科社会学・人間学・人類学研究室

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390009224808123264
  • NII論文ID
    120005998753
  • NII書誌ID
    AN0020011X
  • DOI
    10.18910/60470
  • HANDLE
    11094/60470
  • ISSN
    02865149
  • 本文言語コード
    ja
  • 資料種別
    departmental bulletin paper
  • データソース種別
    • JaLC
    • IRDB
    • CiNii Articles

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