転換期の日本,山田盛太郎・戦後日本資本主義分析の射程 : 外生的再生産循環構造の基盤=「執拗低音」「土着思想」としての土地所有

書誌事項

タイトル別名
  • Japanese Capitalism at the Transition Stage : The Range of MORITARO YAMADA's Analysis after WW2
  • テンカンキ ノ ニホン,ヤマダセイタロウ ・ センゴ ニホン シホン シュギ ブンセキ ノ シャテイ : ガイセイテキ サイセイサン ジュンカン コウゾウ ノ キバン=「 シツヨウテイオン 」 「 ドチャク シソウ 」 ト シテ ノ トチ ショユウ

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抄録

2011年3月11日,東日本大震災は東北地方太平洋沿岸を総なめにした。とりわけ巨大津波は東京電力福島第1原発を襲い,全電源喪失,炉心溶融による放射能被害は取り返しのつかない環境汚染を引き起こした。今も「故郷を返せ」「海をかえせ」の怨嗟の声が渦巻いている。東日本大震災は,戦後日本のシステムの機能不全=「にっちもさっちも」いかなくなった事態のいわば句点。ではないのか。時代状況は,1923年の関東大震災後の状況と酷似していると思う。復興が叫ばれそれが進むなか,1929年の世界大恐慌は昭和恐慌となって出現し,戦前日本経済・社会は壊滅的な打撃を受けた。そして,その打開策は大陸への侵略戦争に突き進むことであった。1931年満州事変から始まる「一五年戦争」である。そうした状況下に出版された著作が,山田盛太郎『日本資本主義分析』(以下『分析』と略記)である。それは,資本主義発達の歴史叙述を意図したものではなく,副題に〈日本資本主義における再生産過程把握〉とあるように,マルクス再生産論を日本資本主義へ具体化するという方法をとり,日本資本主義の軍事的半封建的な型を析出し,階級対抗の〈必至〉と,型の分解による資本制崩壊・変革の見通しを立てた著作である。いま,日本は失われた20年のまっただ中にいて,抜け出せないでいる。その打開のために中国/韓国との緊張関係を意図的に高めながら,自民党公明党政権は軍国主義的な方向へ日本を導いていこうとしている。拙稿は酷似した状況下,山田盛太郎の『分析』と戦後分析の著作を手掛かりに,戦後日本資本主義の構造規定をし,日本の構造変革の要の問題を提起しようとするものである。山田盛太郎『分析』は,何よりも変革の課題と担い手を提起するために日本資本主義の全体構造の把握をめざし,それに成功した書物である。しかし戦後に関してはそうした1冊のまとまった著作はない。だが,筆者は,山田『分析』と戦後の著作をトレースしたうえで,戦後日本資本主義の全構造把握を試みた。山田の指摘・把握の要点は,「従属=自立論争」の渦 中,1967年土地制度史学会・秋季大会で提起された「土地国有論」にある。「高度に発達した資本主義国」日本の幻想が生まれるなか,工業と農業の両立する自律=自立的国民経済(再生産)の構築を山田盛太郎は提起した。山田は,1ヘクタール程度の「零細地片私的所有=零細農耕」を改革しなければ,「膨大な中・下層農民の累積する窮乏化」を固定化し,労働者の「低賃金の基盤を温存」させることになる,と道破した。筆者の見解はこの提起が放置されたために,「失われた20年」のただなかに日本は今いるのではないか。その見える姿が,農業の無残な姿であり,食料自給率40%,民族の命を自力でつなぐことができない様である。それは農村と都市の「限界集落」,労働者の強烈な「格差」となって表れている。その変革課題,すなわち歪んで「高度に発達した資本主義」国変革の国民的課題は(1)東アジア経済圏を目指すなかでの国民経済の再構築(対米従属の揚棄)と(2)再構築の中心課題である農業の再生である。

収録刊行物

  • 経済志林

    経済志林 82 (3), 109-142, 2015-03-20

    法政大学経済学部学会

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