シロウオの生態と増殖に関する研究

書誌事項

タイトル別名
  • Studies on the Ecology and the Propagation of the Ice Goby, Leucopsarion petersi Hilgendorf
  • シロウオ ノ セイタイ ト ゾウショク ニ カンスル ケンキュウ

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抄録

シロウオの形態,分布,河川への遡上及び産卵,海域での成育生態について,主に室見川と博多湾において研究し,これらの知見をもとに本種の増殖方策について取りまとめを行った.1.わが国におけるシロウオの遡上は,鹿児島から函館までの内湾に注ぐ河川に広くみられた.地域間で形態を比較した結果,同一湾内の河川に遡上するシロウオは,形態上に有意な差は認められないが,異なった内湾の河川に遡上するシロウオでは体部比と計数形質などに有意な差を認めた.本種は内湾を成育域とし,これに注ぐ河川を遡上して産卵し,異なった内湾間の交流はほとんどなく,大きな移動を行わない.2.河川に遡上したシロウオの大きさは,雌で平均全長約50mm,雄で約46mmを示し,雌が大きい.遡上期間の後期になるに従い雌雄とも全長が大きくなるが,体重は雌で減少する傾向があり,場所別には河口部より上流の産卵場のものが成育した傾向が認められ,遡上期間におけるシロウオの成長と成熟が考えられた.性比は遡上期間を通してみると1:1であるが,雄の遡上が雌に比して早期に始まり,初期には雄が50%以上を占め,遡上盛期以後に雌が50%以上を占める.3.室見川における遡上期は2月上旬から4月上旬で,その盛期は2月下旬から3月下旬である.全国のシロウオの遡上盛期は,南九州,南四国及び南紀地方の1~2月,北部九州,瀬戸内海及び東海地方の2~3月,北部中国,北部近畿,中部及び関東地方の3~4月,東北及び函館地方の4~5月で,南から北へ遅くなる.4.遡上と環境条件との関係を検討した.まず遡上する河川の水質は,年間平均値でDO7.0mg/l以上,SS14mg/l以下,全窒素量1.8mg/l以下,全燐量0.2mg/l以下,BOD3.6mg/l以下で,遡上期の水質もほぼこの範囲である.遡上の始まる室見川の水温は,海域と河川が等しくなる約7℃で,盛期となる水温は8℃,終期は11℃である.潮汐との関係をみると,大潮時の夜間に遡上量が多く,河口部では下げ潮時に,やな場では上げ潮時に最も多い傾向がある.また,水温の上昇時や日照時間の長い日及び河川流量の減少時に遡上量が増加し,水温の下降時や流量の急増時には減少する傾向がある.5.遡上期におけるシロウオの塩分濃度に対する選好性を求めた結果,23.8‰S以下の汽水を好み,低塩分の河川水を求めて遡上する.6.海域のシロウオは,かい脚類を中心に摂餌するが,成熟,産卵のため河口域に入るとほとんど摂餌しなくなる.しかし,淡水中でも水槽内で餌生物を高密度に与えると産卵床形成に関与していない雌は摂餌するようになるが,雄はほとんど摂餌しない.7.成熟度指数や卵巣の組織学的観察によると,室見川におけるシロウオの成熟は,肥満度が低下しはじめる3月上旬から徐々に始まり,3月下旬の急激な進行後,産卵は3月末~4月下旬に行う.卵巣内卵は,卵径分布からみると,1回産卵されると考えられ,その卵数は約530粒である.産卵は11~14℃で行われる.8.室見川におけるシロウオの産卵場は,河口から1.3~2.4km上流の常時低塩分である感潮域に形成され,産卵場の位置は流量に影響され,年によって多少変化する.営巣や産卵は産卵場内で上流部から順に行われ,下流部ほど遅い.産卵が行われる河床の底質は,シルトや粘土が少なくて,通水性が良く,硫化物量が0.01mg/g以下で,地盤高は大潮の干潮時にも干出しない90cm以下であり,しかも産卵基盤となる石が多い場所である.9.水槽内で営巣及び産卵行動を観察した.雄は産卵基盤となる石の下の砂粒を口にくわえて搬出し,石の下に出入口の口径0.5~0.8cm,奥行3~5cm,幅2~3cm,高さ約1cmの産卵室を作り,雌を巣穴の中から誘い込む.雌は右の下面の産卵床に約500粒の付着卵を一層に産み付け,巣外に出て斃死する.雄も孵化まで卵を保護した後,死亡する.産卵床は底からの深さ20cmまで認められるが,深くなると死卵が多くなる.河川内でシロウオを捕食する魚類は,ウナギ,ビリンゴ,チチブとマゴチの4種であったが,この内,ウナギは明らかに卵保護中のシロウオと卵を捕食する.10.卵内の発生経過を観察した.水温18~23℃で高い孵化率を示し,その孵化時間は245~360時間を要し,高水温ほど短時間である.水温(θ)と孵化時間(H)との間にはH=1408.1exp(-0.0756θ)の関係がある.産卵初期の3月末~4月上旬における室見川の水温は約11℃であり,産卵末期の4月下旬における水温が約18℃であるので,この関係式から室見川におけるシロウオ卵の孵化時間は360~610時間を要することが認められる.また塩分は8.4%S以下で正常に孵化するが,発生が進んだ発眼卵では,かなり塩分濃度の高い汽水でも孵化に到る.孵化仔魚は正の走光性と走流性を示し,室見川では4月下旬~5月上旬に孵化直後から海へ流下する.11.博多湾と大海湾において,稚魚網,底曳網及び地曳網でシロウオを採集し,海域における成長と生態をみると,海域へ流下した仔魚は全長6.1mmで卵黄を吸収し,河口部から湾奥部のアマモ場を主な生息場とする.昼間は底層に生息するが,夜間になると表層にも出現し,かい脚類を中心とした摂餌を行う.翌年の2月まで海域で成長し,稚魚の形態で全長42~43mmに達した後,河川を遡上する.12.体各部の相対成長と一般形態の変化から,シロウオの形態は全長6~7mm,10~12.5mm,37~38mm及び42~43mmで大きく変化し,生態的には生息域が変わる全長42~43mmで大きく変化する.この結果,シロウオの発育期は,形態と生態の変化が同時に生ずる全長42~43mmを境に,海域における幼形型成育期と河川における幼形型成熟産卵期に区分される.13.シロウオの生活史に関する本研究の成果をもとに,室見川におけるシロウオ資源の増殖方法を検討した.成育場としての海域及び産卵場としての河川における水底質などの環境条件の基準を示し,さらに室見川では,5カ所の試験区を設定して,産卵場の造成試験を行った.その結果より産卵場の造成における河床の削土と投石による増殖方法を提案した.

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