山腹斜面特性量の確率統計的特性

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  • Stochastic Properties of Hillslope Parameters
  • サンプク シャメン トクセイリョウ ノ カクリツ トウケイテキ トクセイ

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抄録

山地流域の洪水流現象は,気象(降雨),地形,地質,土壌,植生,土地利用などの支配要因によって規定され,生起している.ところが,これらの内,どの要因を取っても,流域内で一様かつ均一と見倣せるものはなく,このことが現象の物理機構を解明する際の最大の難点となっている.ところで,ある物理量の空間的分布が一様なのか,均一なのかを議論する場合,2種類のスケールが重要な問題となってくる.まず,物理量が測定される個々のサンプルのスケールの問題である.本論文では,透水係数,有効間ゲキ率がこれに関係してくる.すなわち,土壌は,微細な土粒子の不定形な集合体と,同じく不定形な間ゲキより構成されている.従って,Fig.10に間ゲキ率を例に概念的に示すように,ある地点で得られるサンプルは,サンプルの体積が小さい領域ではその値が体積によって細かく変動するが,ある体積V_0以上になるとほぼ一定となってくる.Bear(1972)は,V_0をthe representative elementary volumeと称し,microscopicとmacroscopicの境界を与える体積と定義している.すなわち,V_0以上のサンプルであれば,土壌中の水の流れを考える際の基本となる連続体の仮定を満足させるに充分なほど,土壌構成のパラツキは,統計的に平均化されていることになるのである.本論文ではV_0の検証は行っていないが,Darcy則に従う流れを対象とする場合,100cc定容採土円筒程度のサンプルであれば,このスケールの問題には,抵触してこないと考える.次に重要となってくるのが,サンプリングを行う領域のスケール(広さ)の問題である.これは,本論文で対象としている4つの特性量すべてに関係してくる.すなわち,狭い領域では一様(あるいは均一)であっても,その領域を除々に広げていくと,一様(あるいは均一)と見倣せなくなる場合があるのである.近年,面積の小さな流域を対象とし,集中的に水文観測を行い現象にアプローチしていこうとする方法論がしばしば見受けられる.これは,一方で,小流域では水文観測が容易であるという技術的理由もあるが,やはり,スケールを小さくすることにより,たとえば降雨,地質,植生などの要因をほぼ均一,一様と見倣し,問題の所存を明確にしようとする意図が働らいているにほかならない.著者らも,このような認識により,試験流域を設け山地小流域を対象とした研究を続けている.本論文は,その一環として,山地小流域程度のスケールでも一様とは見倣しがたい土壌特性について,著者らが行っている数値シミュレーションを背景として論じたものである.得られた結果をTable7にまとめる.ところで,本論文では,各種の棄却検定を行い,山腹斜面特性量の確率統計的特性を論じた.その際1つの基準として有意水準α=5%を採用した.そもそも,このような棄却検定は相対的なものであって,有意水準の取り方に大きく依存する.しかし,ここでの検定の目的は,実流域における山腹斜面特性量の確率統計的特性をできる限り忠実に表現する1つのモデルを見出すことにあり,絶対的特性を把握しようとしているのではないことを最後に付記しておく.

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