ヤノネカイガラムシの寄生頻度と夏橙の葉成分との関係について

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タイトル別名
  • On the relation between the chemical components of the leaves of Citrus natsudaidai Hayata and the population density of Unaspis yanonensis Kuwana
  • ヤノネカイガラムシ ノ キセイ ヒンド ト ナツダイダイ ノ ハ セイブン ト ノ カンケイ ニ ツイテ

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説明

ヤノネカイガラムシが薄暗く,しかも気温の高い環境を好むことや,気象条件によつてその発生や,生育が左右されることは,すでに中尾(1962),野原(1962)などの報告によつて判明しているが,そのような環境や気象条件などと共に,樹の生理作用による葉内含有成分もまた,栄養源として,ヤノネカイガラムシの生育に影響をおよぼす要素の一つになるのではないかと推測される.ヤノネカイガラムシの被害の現われ方は,まず最初に,ヤノネカイガラムシの棲息密度の高い,樹冠部から枯れはじめるが,その樹冠部の葉は,施肥の如何に関係なく,棲息密度の少ない赤道部の葉より窒素含有量が多く,また窒素含有量の多い樹は少ない樹よりも,ヤノネカイガラムシの被害が甚だしくなつている.この窒素含有量と同様に,燐酸,カルシウム,マグネシウム,マンガンなどの葉内合有量も,ヤノネカイガラムシの棲息密度の高い所に多くなつている.逆に加里のみは,ヤノネカイガラムシの棲息密度の高い所より,低い所の方が含有量が多くなつていて,前記5つの成分と加里とは,ヤノネカイガラムシの棲息に拮抗的に作用しているのではないかと考えられる.次に,低部や内部の薄暗い環境を,ヤノネカイガラムシが好むということは,Bonner(1952)がいつている,暗所では蛋白質が分解され,可溶性の窒素,すなわち,アミノ態窒素が多くなり,逆に日当りの良い所では,蛋白質を合成するということから考えてみると,日当りの良い所では,ヤノネカイガラムシの養分としては吸収困難な蛋白質が多くなり,生育に不適当な条件になり,薄暗い所では,容易に吸収出来る状態のアミノ態窒素が多くなるためと考える.このことは日当りのよい樹冠部では,ヤノネカイガラムシの絶対数は多いものの,産卵数が他部に比し,とくに多いにもかかわらずその割に成虫の棲息密度が低くなり,生育過程での死虫率が高く,反対に薄暗い所では,産卵数が樹冠部より少ない割に,生育過程の死虫率が低いので,成虫化率がよく,棲息密度が多くなるという報告(野原,1962)の一つの原因として考えることが出来るのではなかろうか.以上のような現象から見て,園内や樹体内の環境を明るくするよう留意すると共に,肥料や栽培管理の面においても,窒素,加里などの成分のバランスを考えることによつても,ヤノネカイガラムシの被害をある程度防ぎうるのではないかと想像される.さらに,夏橙の各系統の間では樹体内の成分含量に当然相違があるであろうことが想像されるので,ヤノネカイガラムシに対する抵抗性が,夏橙の系統の違いによつて生じて来るのではないかと思われる.この点については今後検討の必要がある.

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