農業資本形成における政府の役割 : 農業基盤整備事業に関する一考察

書誌事項

タイトル別名
  • The Role of Government in Agricultural Investments : A Study on the Development of Rural Infrastructure Improvement Projects in Japan
  • ノウギョウ シホン ケイセイ ニ オケル セイフ ノ ヤクワリ ノウギョウ キ

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抄録

本論文では,農業資本形成において政府がどのような役割を果たしたかという視点から,農業基盤整備事業の展開を考察した.本論文における研究を通して明らかになった点は次の通りである.1.構造政策の中心は農業近代化のための物的条件の整備を促進する農業基盤整備事業である.この事業は日本農業の資本形成において重要な役割を果たしており具体的には農業構造改善事業と土地改良事業という二つの事業からなっている.農業構造改善事業は農業基本法で打ち出された構造政策の一つの柱として発足したものであるが,基本法農政の実施過程においては,農業予算規模からみる限り5%以下の地位しか占めておらず,決して突出した事業ではなかった.農業構造改善事業は一次構,二次構,新農構というほぼ10年ごとの長期計画として推移してきた.その事業内容には,日本農業をめぐる内外諸情勢の激しい変化に対応して構想されてきた基本法農政の構造政策理念が逸早く盛り込まれており,構造改善事業の実施を通じてその効果が検証され,理念の修正が行なわれてきた.資本形成の点からみると,一次構では土地資本の形成に重点がおかれたが,二次構以降,次第にその重点が経営近代化施設導入へと移ってきた.2.一方,上地改良事業は土地資本形成の主役として長い歴史を有している.その実施システムと基本的な枠組みは農業基本法制定以前にすでに形成されていた.すなわち,国家の介入による本格的な土地改良事業は,1899年に制定された耕地整理法によって開始された.第一次世界大戦後,国家の財政資金が本格的かつ大規模に土地改良事業に投入され,その後の土地改良への国庫補助を制度化する源流となったが,法制化されてはいなかった.第二次大戦後,戦前の諸制度を継承しつつ新たに体系化・総合化された土地改良法が制定され,土地改良事業が制度化された.また農地改革の成果として,戦前の地主中心の土地改良事業の場合と異なり,戦後の土地改良事業では耕作者がその中心に据えられた.さらに,農業基本法の制定と基本法農政の発起を契機とする土地改良法の数次の改正によって,土地改良事業の内容と性格は大きく変わり,従来の上地生産性の向上を中心とした事業から次第に労働生産性の向上を中心とした事業へと変化し,さらに1970年代に入ってから生活空間としての農村整備も土地改良事業に取り入れられてきた.また,土地改良長期計画の策定を通して,事業の計画化・効率化が図られてきた.すなわち農業基本法制定後の構造政策は,その以前にすでに形成されていた制度をうまく利用することによって,農業資本形成を図ってきたのである.3.農業構造改善事業の実施によって,新技術の導入と生産性の向上,自立経営の育成,生産の選択的拡大,地域農業の確立などの諸効果が発揮されている.また土地改良事業の実施によって,農業生産の増大,水利施設の維持管理費の節減,営農労働の節減,生産性の向上,農村社会の緊張緩和などの諸効果が発揮されている.4.農業基盤整備事業の実施はいずれも国家財政による強力な支持によって行なわれたものである.全体的にみれば,事業費の7割ぐらいは国と地方自治体の補助金によって賄われており,残りの部分もそのほとんどが長期低利の制度金融によって賄われている.要するに,日本農業における資本形成は主に上記の両事業を通して,国家の強力な支持のもとで行なわれたことが本研究で明らかにされた.このような国家の強力な支持が必要とされるのは,農家の私的な投資だけに任せておいては社会的に望ましい農業投資水準が達成されないからであろう.

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