転輪王説話の生成 --その始源から「輪宝追跡譚」の成立まで--

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  • 手嶋 英貴
    京都文教大学総合社会学部教授・京都大学人文科学研究所非常勤講師

書誌事項

タイトル別名
  • The Formation of Cakravartin's Figure From Its Origin to the Composition of the "Cakra-Chasing Episode"
  • テンリンオウ セツワ ノ セイセイ : ソノ シ ゲン カラ 「 リンポウ ツイセキタン 」 ノ セイリツ マデ

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抄録

転輪王(Skt. rājan- cakravartin-, Pa. rājan- cakkavatti[n]-)は, 主に仏典においてしばしば言及される理想の帝王である。この王は, もっぱら仏法によって臣民を教導し, 武力によることなく全大地を征服するといわれる。古代インドの帝王イメージの展開を理解する上で重要な存在であり, 研究者の間でも早くから注目されてきた. しかし, その人物像の発展過程は複雑であり, 未だ定説と言えるものが存在しない. そうした状況を踏まえ, 本稿では, パーリ語で編まれた初期仏典における転輪王関係の記述を見直し, その人物像が生成されていく過程を考察する。そこから得られた結果は, 概ね次のようにまとめられる。(1) cakkavatti[n]-という語は本来「車に乗って走行する」という意味の形容詞であったと考えられる。パーリ経典ではこの形容詞が実体詞である「王」(rājan-)を修飾し, 二語が一組となって「(軍事的・政治的活動のために)車に乗って走行する王」を意味した。またこの語は, 慣用的に, 全大地を支配する王の修飾語として使われる傾向を持っていた。(2) この原型的人物像は, やがてゴータマ・ブッダのイメージと結合し, 「法によって全大地を支配する帝王」という人物像に発展した。また, その人物像を表現する定型文・語句が生み出された。上記の過程で「転輪王の七宝」を述べる定型文が生じた。(3) そうした動向に伴って, パーリ中部および長部経典に見られる七宝個々の説話が作成された。そのうち転輪王説話の代表というべき「輪宝追跡譚」は, 仏典内で生成してきた転輪王の人物像を継承している。しかし, 説話全体の骨子は, ヴェーダの王権祭式アシュヴァメーダの儀礼過程を模倣・翻案する仕方で作られた可能性が高い。そこには, 古代インドで広く知られた祭を模倣することにより, 仏教徒以外をも含む幅広い層の人々に, 転輪王という新しい帝王像を容易に理解, 受容させる意図があったと推測される。

収録刊行物

  • 人文學報

    人文學報 112 27-86, 2018-06-30

    京都大學人文科學研究所

被引用文献 (2)*注記

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