<論説>世界分割の科学と政治 : 「モルッカ問題」をめぐって
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- 合田 昌史
- 新潟大学助教授
書誌事項
- タイトル別名
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- <Articles>Sciences and Politics on the Demarcacion : the case of the Moluccas question
- 世界分割の科学と政治--「モルッカ問題」をめぐって
- セカイ ブンカツ ノ カガク ト セイジ モルッカ モンダイ オ メグッテ
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説明
南アジア産の香料は大航海時代の西洋人たちを駆り立てた。なかでも格段に高価だった丁香の原産地モルッカ諸島に先着した(一五一二年末頃) のはポルトガル人であった。ところが、マゼラン(その死後はデル・カノ) 率いるスペイン艦隊がモルッカ諸島に寄港し(一五二一年一一月) ビクトリア号が丁香を積載してスペインに帰着(一五二二年九月) 。これを契機にスペイン・ポルトガル両王権間に「モルッカ問題」が生じた。この問題を解決するために設けられたのがバダホス=エルヴァス会議(一五二四年四月一一日―五月末日) である。この会議で両国の航海者や天文学者たちは分界の取り決めに基づいてモルッカ諸島の所有権の所在を、両国の法曹家たちはその占有の現状を論議したが、結果的には何の合意も引き出せなかった。しかしながら、U. Lamb はこの会議は「偉大な科学的事業」となる可能性をもっていたし、少なくとも分界の審議にあたった人々の間には政治を越えた「広範な合意の場」が成立していたと考えている。 本稿では分界に関する共通の認識すなわち「共知」の内容と会議を政治化させた仕組みに注目しながら議論の展開を詳細に検討した。まず、分界に関する共知は二重構造を形成していた。表層にはスペイン有利の熟知があったが、深層に有利不利の判断が難しい共知が隠されていたため互いにこれを変造して対抗した。しかも、この二重の共知は「対蹠分界」の理念という政治性の強いもうひとつの共知のうえに成立しており、それは新たな分界論への途を閉ざしていた。Lamb 説に反して政治は共知の担い手たちの言動に強い影響力を及ぼしていた。
収録刊行物
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- 史林
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史林 75 (6), 829-864, 1992-11-01
史学研究会 (京都大学文学部内)
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390009224846324992
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- NII論文ID
- 120006597748
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- NII書誌ID
- AN00119179
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- HANDLE
- 2433/239199
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- NDL書誌ID
- 3490095
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- ISSN
- 03869369
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- 本文言語コード
- ja
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- 資料種別
- journal article
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- データソース種別
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- JaLC
- IRDB
- NDLサーチ
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用可