豪州における遺伝子組換え体諸規制見直しの動向

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タイトル別名
  • Regulatory Reforms for GMOs in Australia
  • 調査・資料 豪州における遺伝子組換え体諸規制見直しの動向
  • チョウサ シリョウ ゴウシュウ ニ オケル イデンシ クミカエ タイ ショ キセイ ミナオシ ノ ドウコウ

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我が国にとって米国,中国に次ぐ三番目の農産物輸入先国である豪州において,最近,遺伝子組換え体(GMO)に関わる諸規制の見直しが相次いで行われた。豪州のこのような動向は,我が国の輸入農産物や食品にも直接影響を与える可能性かおり,正確に把握しておく必要かおる。また今後,GMO諸規制に関連する国際交渉に向けた我が国の対応や国内のGMO諸規制の検討に資するという観点からも,世界有数の農産物輸出国であり国際交渉の場でも大きな影響力をもつ豪州の動向把握と情勢分析は有益である。そこで本稿では,豪州におけるGMOの環境放出等の取り扱い規制及びGM食品の安全性評価・表示規制について,それぞれ規制見直しの経緯および新規制の概要・特徴点を明らかにし,次いでそれらが豪州のGM作物戦略や対外交渉に及ぼす影響,さらに我が国にとってのインプリケーションについても若干の考察を行った。 豪州国内のGM農産物を含むGMO全体の実験,環境放出等の取り扱いについては,これまで連邦政府の遺伝子操作諮問委員会(GMAC)が法律的根拠のないガイドラインに基づく指導,勧告等によって規制してきた。しかし,今後増大すると見込まれるGM農産物の商業的生産要望に対応するとともに,その環境や健康に与える影響評価をより適切に行う必要があること等を考慮し,新たに遺伝子技術法を成立させ,同法は2001年6月に施行された。この法律の最大の特徴は, GMACに代わって,査察権限等の強力な法的権限を与えられた独立性の強い遺伝子技術規制官(GTR)を新たに設置して取締りを行わせる等,規制の強化が行われたことである。本法においては,低リスクであるとしてあらかじめ規制対象から除外されたもの以外のすべてのGMO取り扱いについて,GTRの厳格な審査に基づく免許が必要とされ,これに違反すると最高で5年の禁固または22万豪ドルの罰金(個人の場合)が科されることとなっている。 一方,GM食品の安全性評価及び表示については,豪・NZ食品安全局(ANZFA)が豪・NZ共通食品規則A18に基づいて規制を行っている。このうちGM食品表示については,2000年7月の豪・NZ食品規格審議会(ANZFAの上位にある連邦・州の保健相レベル会合)において,「実質的同等性を有していても,新規のDNAやタンパク質が存在するGM食品については,原則表示義務を課すこと」が決定され(ただし1%までの非意図的混入は許容する等の例外措置がある),EU並の厳しい規制となった。この新しい表示規制は, 2001年12月に施行される。 現在,豪州国内で商業生産されている食用のGM農産物は綿のみであり,世界市場では,米国やカナダといった「GM農産物先進国」に比べて出遅れている状況にある。上述した環境放出規制強化の背景には,こうした状況を打開するため,生産者が積極的にGM農産物を導入できるような体制を整備しようとの政策的意図があったとみられる。今後は,新体制の下で,GMカノーラ(菜種)や(研究開発が進んで実用段階に至れば)小麦,大麦等の豪州の主力穀物においても,一挙にGM農産物が増産される事態が起こり得る。一方,GM食品表示規制の強化は,FAO/WHO合同食品規格委員会(Codex)等の国際的な議論の場で,従来豪州がとってきた「表示等の規制強化は貿易歪曲につながる」との強硬な立場とは矛盾を生ずる。今後,豪州の交渉ポジションに何らかの変化があるかどうか注目される。

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