最低賃金に関する研究の現状

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  • 虞 尤楠
    九州大学大学院経済学府 : 博士後期課程

書誌事項

タイトル別名
  • Current status of minimum wage research
  • サイテイ チンギン ニ カンスル ケンキュウ ノ ゲンジョウ

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抄録

本研究では,最低賃金の発展の歴史を整理した上で,日本の最低賃金制度を他国の制度と比較し,日本の最低賃金の特徴を考察した。また,最低賃金の決定要因やその影響を分析した代表的な研究を取り上げ,主な結果について考察を行った。 / 日本の最低賃金は,中央最低賃金審議会による地域区分ごとの目安額の提示をもとに,各都道府県の地方最低賃金審議会が毎年賃金額の改定に関与する仕組みになっており,「審議会方式」による賃金決定が重要な役割を果たしてきた。そして,多様な利害関係者による調整を通じて,地域間や地域内の賃金格差の拡大をある程度まで抑制することに貢献してきた。また,近年は,2008年の改正賃金法の施行によって生活保護の水準との整合性にも配慮しており,労働者の勤労意欲を維持するための制度設計がなされている点に特徴がある。 / 最低賃金に関する先行研究の分析結果は多様であり,特に最低賃金が雇用に及ぼす影響については明確なコンセンサスは得られていないが,最低賃金が所得分配の平等化や貧困の削減に一定の影響を与える点については,多くの先行研究が実証している。全体としては日本の最低賃金の水準は国際的に見て未だ十分とは言えない状況にあり,今後の最低賃金の役割の強化が期待される。最低賃金がその効果を十分に発揮するためには,最低賃金制度が他の社会保障制度や企業のWLB(Work Life Balance)支援制度との整合性を持つようにするための一体的な制度設計が重要であり,今後も,最低賃金制度が,家計や地域経済にどのような影響を与えるかについて,様々な観点から検討を加え,適切な範囲での施策が講じられる必要がある。

収録刊行物

  • 経済論究

    経済論究 168 77-103, 2020-12-25

    九州大学大学院経済学会

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