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  • イワテサン ノ カタチ
  • On the Form of Mt. Iwate

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抄録

岩手山は南部片富士と称されるように、その東側斜面はなだらかであり、我々に秀麗な印象を与えるようである。それでは、この輪郭線は数学的にどのような曲線として表され得るであろうか?また、山の斜面は物理的に平衡状態であることが予想され、従ってベクトル解析学の教えるところにより、山の高さを表す関数は調和関数であることが期待される。しかしこれは実際、どのようにして確かめられることであろうか?日本の火山の形の研究は明治10年頃、地理学者John Milneによってなされた。彼は日本の各地を調査して、日本の成層火山に特有な形があることに気が付き、その代表的例として富士山を取り上げ、その写真の解析から、この山の輪郭線の中腹部分は対数曲線で表されることを主張した[1]。更に同時代の物理学者George F. Becker[2]はこのMilneの主張を理論的に裏付けるべく、対象とする火山が火口を通る鉛直線を軸とする回転体であると仮定して、山体の荷重の均衡に仮説を設けて、山の高さを表す関数が調和関数であることを導こうとした。なぜなら一般に、曲面が鉛直線を軸とする回転面ならば、この母線が対数関数であることと、この回転面を表す関数が調和関数であることは同値であるからである。しかしながら、Beckerのこの議論の過程には数学的な誤りがあり、従ってこの試みは未完と言わざるを得ない。そこで著者はこれらの先行研究をヒントに、火山の形について次の予想を立てた。実際の火山を表す地図において、斜面のうち、なだらかな部分を選べば、それは山頂を通る鉛直線を軸とする回転面の部分として粗視化できるのではないか?そしてその母線は対数曲線ではないか?もしこれらが正しければ、上に述べたように少なくともこの斜面部分は調和関数によって表されることになり、Beckerの証明しようとしたことが導かれるわけである。著者はこの方針に沿って、本年3月、日本数学会年会の応用数学分科会において、富士山の形についてその2万5千分の1の地図を基にして考察した結果を発表した[3]。本稿では、同様の手法により岩手山の東側斜面を考察する。ここで結果の一部述べれば、岩手山の東側の輪郭線の上部は直線的であり、中腹部は対数曲線的である。この結果は富士山の場合と同様であり、Milneの洞察を示唆しているようである。

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