「後朝の歌」 : 中世宮廷社会における文芸ジャンルの事実と虚構

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  • Kinuginu - dawn songs in the Japanese court society of the Middle Ages : some aspects on reality and fiction

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男が女を訪れて一夜を共に過ごし,翌朝別れの辛さを歌うdawn songsは,世界中の多くの文化圏で見られる文芸である。ドイツ語圏でも古くから好まれたジャンルであるが,最も古い12世紀から15世紀頃の場合,作品自体は残されているものの,現実世界との接点を見出すのは困難である。いつ誰がどこでいかなる機会に歌われたかなど,不明な点は多い。これに対して日本の宮廷社会では,「後朝の歌」が現実の習慣に根ざす現象だったことが史料的にも明らかにされている。実存の人物どうしが通い通われ交わした作品だけでなく,盛んに催された歌会で題を与えられて歌ったものまである。後朝の歌を交すことは婚姻儀礼の一部でもあった。しかし,今日常識とされることの多くが,主として文芸作品の記述に基づくことには注意も必要である。史料からは,「男が通って女が待つ」という通念に反する例,すなわち「女が男の許に通う」例も知られている。こうした事例がdawn songsの研究をすぐに変えるわけではない。しかし文芸作品を生んだ社会を異なる視点でとらえなおすことには十分意義がある,と主張したい。

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