障害受容の段階をスムーズに移行した若年性脳血管疾患患者についての一考察

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  • 村橋 拓真
    社会医療法人財団 白十字会 燿光リハビリテーション病院

抄録

<p>【はじめに】</p><p>今回,右視床出血を発症し左片麻痺を呈した30 歳代男性を担当した.若年性の重症脳血管疾患であることを踏まえ,障害受容と関連づけたリハビリテーション(以下リハビリ)を実施し自宅復帰に繋がった症例をここに報告する.</p><p>【症例紹介】</p><p>30 歳代男性 診断名:右視床出血 現病歴:就寝中に頭痛が出現.意識障害を認め救急搬送.右視床出血,脳室内出血,水頭症と診断.術後経過は問題なく水頭症も改善し,リハビリ継続目的で当院入院となる.入院前ADL は自立.</p><p>【評価】</p><p>Demand:歩いてトイレに行く.初期評価/ 最終評価 意識レベル:JCS I -3/ 清明 経管栄養管理/ 経口摂取 HDS-R:12 点/29 点 12 段階グレード:上肢1, 手指1, 下肢 2/ 上肢7, 手指7,下肢4 歩行形態:長下肢装具/1 本杖+ 金属支柱付き短下肢装具(以下S.L.B.) FIM:30 点(運動:13 点, 認知:17 点)/109 点(運動:75 点, 認知:34 点)基本動作:全介助/ 自立</p><p>【経過】</p><p>本症例は,入院当初は意識障害が残存し「眠たい」等の発言が多く自己認識も乏しい状態だった.入院1 ~ 2 か月目より「また繰り返すのではないか.」と再発に対する不安やリハビリに対する疲労感を訴えることが多かった.この時期に長下肢装具使用と併行し,Hybrid Assistive Limb(以下HAL)を使用した歩行訓練を開始した.入院3 か月目より1 本杖とS.L.B. での訓練へ移行しHAL は継続した.この頃より「杖は今後もいるよね.」等の身体状況についての発言が聞かれるようになった.入院4 ~ 5 か月目は病室内での歩行訓練を実施し,入院5 か月目に病室内移動の自立に至った.この頃に「やっと目標に近づいたね.」等の建設的な発言が目立つようになった.入院6 か月目に退院前訪問を実施し,家屋改修の検討や動作指導を行った.退院前訪問後に「帰ったら階段に手すりが欲しいね.」との発言が聞かれ,介護用品の検討や退院後課題となる動作に対しても積極的に取り組まれるようになった.その後,家屋での生活自立を確認し自宅復帰に至った.</p><p>【考察】</p><p>上田は障害の受容(克服)過程は「ショック期」「否認期」「混乱期」「解決への努力期」「受容期」を経て,障害を克服していくと考えられている.本症例は入院1 ~ 2 か月目より再発の不安やリハビリに対する消極的な発言が聞かれ,自己防衛反応が出現していたと考える.この反応は,「否認期」と「混乱期」を行き来している状態からくるものと考える.この時期は,障害部位に対する回復期待も高く,障害部位への訓練に積極的な事からHAL を使用した機能回復訓練を実施した.また,「否認期」「混乱期」から「解決への努力期」への移行に向けた介入として,本症例の目標である「歩いてトイレに行く.」へ向け病室内移動訓練を実施した.目標達成へのアプローチを明確化することで,本症例が意欲的に訓練に参加できたと考える.入院5 か月目で目標を達成できたこと,自身で想像した身体状況と現実との乖離を把握できたことは,本症例の障害受容という側面での契機となったと考える.その後,徐々に乖離が縮まってきていることを表す発言が多く聞かれ,本症例のボディイメージの再構築が図れたことが伺え,「解決への努力期」へ移行出来たと考える.「解決への努力期」から「受容期」へ移行する為の介入として,退院前訪問や外泊訓練を行った.この時期,「階段練習がしたい.」と自宅復帰に向けた訓練の希望や福祉用具検討等の退院計画に積極的に参画されるようになった.以上より「受容期」へ移行でき自宅復帰に繋がったと考える.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき対象者には発表の趣旨を説明し同意と承諾を得た.</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390009483112628736
  • NII論文ID
    130008154616
  • DOI
    10.32298/kyushupt.2021.0_127
  • ISSN
    24343889
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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