シベリアのタイガ林を流れる河川中溶存成分の動態から見た環境変動

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  • Environmental changes observed from dynamics of solutes in tributary water in a Siberian Taiga forest

抄録

<p>1. はじめに シベリアのタイガ林は、絶妙な水および養分のバランスで成立する生態系であり、植生撹乱が発生すると生態系が失われる恐れがある。但し、生態系には恒常性があり、ある程度の撹乱ならば時間をかけて、再生できる。しかしながら、撹乱が高頻度で繰り返されたり、広範囲に発生したりすると生態系は不可逆的に消失する場合もある。このような生態系の劇的な変化には環境中の予兆が伴う。 河川水中のコロイド粒子や溶存成分の経時的変化は流域環境の変動として捉えられる。例えば、流域に火災や伐採が生じると、地表面の撹乱を誘引し、コロイド粒子の流出が極端に増加する。このような生態系への撹乱は現在のグローバルスケールでの地球温暖化を始めとして、様々なスケールの環境変動が生じており、特にシベリアを含む北方生態系において劇的な環境変動が報告されている。本研究では、西シベリア低地の小河川流域を対象に溶存有機物と生元素の季節変動から流域環境で生じた環境変化との関係を考察した。 2.材料と方法  研究対象地は西シベリア低地に属し、エニセイ河西岸に位置するスカチェフ森林研究所のZOTTO 観測地を含む流域とした。研究対象流域を流れるRazvilki川は、エニセイ河水系に属する全長11kmの二次河川であり、68.7km2の流域面積の約半分が泥炭地である。広く泥炭地が分布している西シベリア低地では、典型的な生態系である。一方、西シベリア低地では南北に層厚の異なる永久凍土の分布が認められるが、本研究対象地の地下には永久凍土は分布しておらず、600㎜を超える比較的多い降水量と低平な地形により発達した湿地が広く分布する地域である。一方で、同地域では、マウンドを形成した泥炭地では乾燥化が進行しており、灌木が侵入してきている。本研究では、2015年10月から5年間にわたり、Razvilki川とHojba川の合流点付近において、河川水を週に一度ずつ採取し各種分析に供した。  分析項目は溶存有機態炭素(DOC)、無機態炭素(DIC)、全窒素、硝酸態、亜硝酸態およびアンモニア態窒素、リン酸濃度である。 3.結果と考察 河川流量と溶存有機物  河川流量は融雪期と降雨期を反映して、概ね、一年間で3-4期の季節的な流量の増大を示す。西シベリアはシベリアの中でも年間降水量が比較的多く、融雪に続く凍土融解がもたらす春季の流量に対して、夏季の降雨による流量が大きいことが特徴である。この流量の変化に応じて、河川水の蛍光強度が変動しており、水溶性有機物が流域から溶出していることがわかった。特に、5月から6月の融雪期に高いピークが認められ、地表面の融解が溶存有機物の流出を高めていることが窺えた。溶存有機態炭素濃度(DOC)は融雪期と夏季に高い濃度を示し、それらは凍土に含まれていた植物体残渣中の融解成分や夏季の有機物分解後に溶出する有機成分に由来するものと考えられた。 溶存有機物と生元素 DOCは生元素濃度とも有意な相関関係が認められた。特にリン酸濃度は高い相関関係を示し、凍土融解時期から増加し、表土の凍結期間には低い値を示した。硝酸態と亜硝酸態窒素がリン酸と類似した季節変動を示したのに対して、アンモニア態窒素では冬季に高い値を示す逆の傾向が認められた。また、硝酸及びアンモニア態窒素では極端な値を示す時期が認められた。アンモニア態窒素は有機物の分解に由来し、硝酸態窒素は硝化過程を経た溶出として解釈された。 極端な値と流域環境 多くの生元素濃度の変化は河川流量で説明ができるものの、一部の極端に高い値には流域における別の影響が考えられた。特に、通常窒素不足になりがちな林分でありながら、極端に濃度が高い事例が発生しており、流域での土地利用の広がりに伴う森林伐採との関係が推察された。</p>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390010292768863104
  • DOI
    10.14866/ajg.2022s.0_94
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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