重症心身障害児(者)へのこれからのリハビリテーション

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  • 奥田 憲一
    社会福祉法人 慈愛会 聖ヨゼフ園 リハビリテーション部

書誌事項

タイトル別名
  • −理学療法の立場から−

抄録

重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))の理学療法(以下、PT)に携わる15人の理学療法士(以下、PT)が発起人となり、花井 丈夫 氏(横浜療育医療センター、PT)を会長に、2009年8月1日「重症心身障害理学療法研究会」が発足した。おおむね年1回開催されるセミナーは今年で第5回を数え、9月14〜15日、大阪で開催される。第5回セミナーのテーマは「動く」であり、「リハビリの夜」(医学書院、2009.)の著者である熊谷 晋一郎 氏をお招きし、「動きの誕生−身体外協応構造−」というテーマで提言を頂く。さらに「電動移動機器を用いて子どもたちの動きを引き出す−エンジニアの立場から・理学療法士の立場から−」というテーマで、安田 寿彦 氏(滋賀県立大学工学部)と高塩 純一 氏(びわこ学園医療福祉センター草津、PT)から提言を頂く。 何故「動く」がテーマなのか。電動車いすに関する研究は比較的古くから行われており、20カ月から36カ月くらいの子どもたちにとって、障害の有無に関わらず、電動車いすの使用が認知や社会性、コミュニケーション能力を向上させることが示されてきた。Gallowayら(2008)は、物に向かって手を伸ばし把握することが可能で、実用的な移動手段が未獲得の7カ月の正常乳児と、ほぼ同程度の上肢機能と粗大運動機能をもつ14カ月のダウン症児、2名を対象に、具体的指示は用いず、自発性を重視する態度で電動車いすに乗せた結果、徐々に自発的操作が獲得されることを示した。さらにLynchら(2009)は、7カ月の二分脊椎を持つ乳児の電動車いす操作を半年間追跡した。その結果、自発的な電動車いす操作が獲得されるだけでなく、Bayley Ⅲを用いた評価では、認知、言語、巧緻運動の領域で暦年齢よりも高いスコアが獲得されたことを示した。この「自ら動く」ことが認知や言語領域等の発達に不可欠であるということの意味は大きく、今後注目していかなければならない領域であることは間違いない。 一方、重症児(者)にとって「自ら動く」ことの制約因子となるものの一つに重力がある。この重力に対して高塩(2011)は、1993年にNorman Lozinski が開発したThe SPIDERを次のように紹介している。「The SPIDERという名前は、身体から外に向かって張られたゴム紐が蜘蛛の巣のように見えるところからつけられたもので、身体に装着する留め具付きベルトと、弾力性の異なるゴム紐とを固定するための支柱もしくは枠から成り立っている。The SPIDERを用いることで(身体がゴム紐によって吊られ、体重が免荷された状態となり)、身体の弱い部分をサポートしながら、筋肉や関節内にある固有受容器からの情報と、バランス能力に必要な前庭系・視覚系からの情報を容易に統合することができる。」としている。当園でも重症児(者)に対して、独自に作製したThe SPIDERを用いてPTを行っている。たとえば痙直型四肢麻痺を持つ50代の男性(GMFCS level Ⅳ) にThe SPIDERを用いて、バルーン上座位にて他動的に体幹の上下運動を行うと、しだいに両下肢の筋緊張亢進状態は改善し、徐々に両下肢の屈曲・伸展の自動運動が現れてくる。回数を重ねてくるとバルーンを用いずに立位姿勢の中でも可能となり、両下肢だけではなく両上肢の筋緊張亢進状態も改善し、「身体が軽くなった。」と喜ばれている。このThe SPIDERを用いることは、結果的に自動運動が現れてくるので「自ら動く」ことにつながるものといえる。 以上示した内容は、従来の重症児(者)のPTに置き換わるものと考えるのではなく、従来のPTでは十分に達成できなかった側面を補うものであり、その側面は無視することのできない領域であると考える。最後に今回のシンポジウムでは、当園でのPTの実際の取り組みも可能なかぎり紹介しながら、多くの方々との討議が深まることを期待している。 略歴 1991年、国立療養所福岡東病院附属リハビリテーション学院理学療法学科卒。同年、佐賀整肢学園入職。1995年、旭川荘療育センター児童院入職。同年、ボバースアプローチ8週間講習会受講。1997年、中央競馬馬主社会福祉財団海外研修生(第26回生)、英国、米国で研修。2004年、柳川療育センター入職。2012年、聖ヨゼフ園入職。2007年、国際医療福祉大学大学院保健医療学専攻修士課程修了。2009年、第43回日本理学療法学術大会(福岡)優秀賞受賞。第44回日本理学療法学術大会(東京)イブニングセミナー「小児の24時間姿勢ケア」講師。2010年4月、専門理学療法士(神経)認定。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390010457687804288
  • DOI
    10.24635/jsmid.38.2_228
  • ISSN
    24337307
    13431439
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用可

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