J.S.ミル「労働費用・利潤相反」論 : J.S.ミル『経済学原理』第1編「生産」論における相反論の展開

書誌事項

タイトル別名
  • A Study on J.S. Mill’s Theory of “Inverse Relation between Cost of Labour and Profit” : In relation to Book I Production in J.S. Mill’s Principle of Political Economy
  • J.S.ミル 「 ロウドウ ヒヨウ ・ リジュンソウ ハン 」 ロン : J.S.ミル 『 ケイザイガク ゲンリ 』 ダイ1ヘン 「 セイサン 」 ロン ニ オケル ソウ ハンロン ノ テンカイ

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抄録

J.S.ミル(John Stuart Mill,1806-1873)の主著『経済学原理』(1848)の問題意識は,最先進国イギリスは国家が何の施策も講じなければ,不生産的階級である地主のみが地代上昇により富裕となり,生産的階級である資本家の利潤率低下と労働者の貧困という政治的・経済的矛盾をかかえたままで利潤率が最低になる「停止状態」(stationary state)に陥ることにあった。ミルの認識では,経済格差や労働者階級の貧困問題は,自然法則(土地収穫逓減法則,人口法則)に起因するものである。ミルの考えでは,現行の私有財産制において,「生産上の改良」を行い,〈現実としてのディズマルな「停止状態」〉の到来を先延ばしにして,その間に理想的市民社会構築のための改善政策を行う必要がある。 ミル『原理』においては,理想的市民社会を実現するための原理は「労働と制欲にもとづく所有」原理であり,労資協調体制を支える経済理論装置は「労働費用・利潤相反」論である。リカードウの「賃金・利潤相反」論では,労働者の賃金と資本家の利潤は相反関係にあるため,ミルは,「賃金」を「労働費用」へと組みかえ,「労働能率」という変数を組み込んだ「労働費用・利潤相反」論を提示し,労資協調路線を導く理論とした。 理想的市民社会の実現のためには,〈「労働能率」の客体的要因〉と〈「労働能率」の主体的要因〉の二重の改善によって,自然法則(土地収穫逓減法則と人口法則)の作用を遅らせることが必要である。 従来の研究では,ミルの「労働費用・利潤相反」論は第3編「価値・価格」論で展開されるとされた。しかし,本論文では,『原理』第1編「生産」論において「労働費用・利潤相反」論の基本公式が提示され,『原理』全編で検討されるミルの問題提起が,ミル相反論に依拠して第1編にすでに提示されていることを明らかにした。本論文では,貴族的大土地所有制度の解体による株式会社制度の社会的普及・発展,労働者階級の〈「知的・道徳的水準」の向上=人間的成長〉による「労働能率」の改善と自発的人口制限の実施が,理想的市民社会の実現のために極めて重要であるというミル独自の視点を明らかにした。

収録刊行物

  • 経済志林

    経済志林 89 (3), 291-326, 2022-03-25

    法政大学経済学部学会

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